そんな顔もするんだ。
 
 無意識に現実逃避している私は、一瞬そんなことを思っていた。


「いままで働きながら勉強していたことが役に立つ時が来たんだ、貢献出来るんだ」
 
 呆然とする私に正の言葉は心に届くことは無く、音として聞こえている状態だった。
 
 変わった建築家とは思っていたけど確かに不思議だったのよ、だって廃材みたいな材料ばかり使うから、最初から材料の手に入らない国を視野に入れていたのね。

 あっ!

「ちょっと待って、それってもしかしてボランティア的なこと?」
「ああっ、もちろんスポンサーも付いたし、そのための貯金もしたんだ」


 私は慌てて彼の言葉を否定した。
「はあ、せっかくの貯金も使ってしまうの? そんなの駄目よ、私は嫌よ」

 とても素晴らしいことであることは理解出来るが、人の幸せを優先出来るほど私に勇気もゆとりも無かった。


 たて前的にも綺麗ごとさえ言えない、現在の状況にイラ立ちのような気持ちも感じていた。
 それからの私達に、どれだけの沈黙が続いたのだろうか? 会話が途絶えた私達の目の前では、飲み物の入ったグラスがみるみる空になっていった。


 運命の道筋は悪い方にしか向いていないらしく、身の回りの出来事全てが、不幸を呼び寄せていた。

「悪いけど私にも幸せになる権利はあるわ」 

 言ってはいけないと思ういながら立ち上がると、心の奥に閉まう言葉が出てしまう。


「着いていくことも、待っていることも、貴方の行動に賛同することも出来ないわ。うーーーうっ、さよなら」
 私はそう話し、彼を置いてその場を立ち去った。