別れたくない。早く戻ってきてほしい。
 私はそのことをペンタスに願います。  


 夕暮れ時の赤く染まる自宅の部屋で、一通の手紙を読み返していた。
 この文書は三年前、彼に渡しそびれた手紙の最後に書かれている。 
 今まで読み返すことはなかったが、改めて見て不思議に思う。
 
 筆跡は確かに私の書いた字に間違いは無い。でも別れたくない。早く戻ってきてほしい。こんな文書を書いた覚えがない。
 それにペンタスに願う? 確かにこの時期、流行っていたけど。
 
 疑問を持ちながらも、元の場所である机の引き出しに手紙をしまうと、薄いカーテンを閉めるため窓際に向かい歩いていた。
 何気なくのぞき見た窓の外には、私を見つめるかのように一番星が輝いている。
 そのことに気付くと、年甲斐も無く歌うかのように声に出していた。

「いちばんぼーしーみーつけた♪」
 
 その光景は懐かしくも感じ、まるでしばらく会っていない友人から、忘れていた昔話を聞かされているようだった。  
 あっ、このことだったんだ。
 手紙の文書に心辺りが有ることがわかると、当時のことを思い出し呆れるように笑ってしまう。


「あの子、今どこにいるのかしら」
 
 それは知らず知らずに、私にくれた優しさに気付いてしまったから。

 三年前の春。私とあの子の出会いは、最悪の事態から始まったのだった。