わたしは自宅に帰って来ると、何も食べる気になれず、シャワーを浴びてからそのまま布団に潜り込んだ。

ずっと消えないコンプレックス。
手汗をかくことに慣れなんてなかった。

小学校から高校まで、授業中はノートが濡れないようにハンカチが必須で「何でノートにハンカチ置いてるの?」と、クラスメイトに言われたこともあった。

すると、仕事の疲れもありウトウトし始めた、そのときだった。

枕元に置いてあるマナーモードにしているスマホが、ブーブー鳴り出したのだ。

わたしは身体を起こし、スマホを手に取った。
着信先は、響希からだった。

「、、、もしもし?」
「あ、花澄?今、大丈夫?」
「わたしは大丈夫だけど、響希は?デート中じゃなかったの?」
「あぁ、あれはもう帰るところだったんだよ。今、彼女を送って帰って来たとこ。」

スマホから聞こえてくる響希の声は相変わらずだった。
何も変わらない響希の口調に何だかホッとする自分がいた。

「あのあと、あの人誰なの?!って問い詰められたよ!彼女、嫉妬深くてさ。」
そう言い、響希は笑った。

響希は昔からモテていた。
小学生のときはサッカーチーム、中学、高校ではサッカー部に在籍していて、響希のファンはたくさんいた。

「嫉妬深いなら、安心させてあげないと。わたしとの電話に気付いたら、また嫉妬しちゃうんじゃない?」
「大丈夫だよ。それより、花澄のことが気になってさ。元気なさそうだったから。何かあった?」

響希はいつもわたしのことを気に掛けてくれていた。
少しでもいつもと違うところがあると「どうした?」と声を掛けてくれるのだ。

今でも変わらず、響希は優しかった。