「あー、美味しかった!ご馳走さま!」

そう言いながら、響希は両手を合わせた。

「美味しかったね。」
わたしがそう言うと、「でも、玉ねぎが目に染みた〜!」と涙を拭く仕草をし、わたしを笑わせてくる響希。

そして、わたしがお皿を片付けようとすると、「あー、花澄は座ってて!片付けは俺やるから!」と言い、わたしの分のお皿を自分のお皿に重ねると、スプーンと一緒にシンクへ運んで行った。

「お皿置いといていいよ?わたしやるからさ。」
「いいから!花澄、残業してきたんだろ?疲れてるんだから、休んでなさい!」

まるでお母さんのような口調で言う響希に、わたしは「じゃあ、お言葉に甘えて。」と言った。

台所で食器を洗う響希の後ろ姿。
その姿を見つめてしまう自分。

諦めたはずなのに、抑えてきた心が揺れ動くのを感じた。

食器を洗い終えると、響希は「こんな遅くまでごめんな!カレーご馳走さま!じゃあ、帰るな!おやすみ!」と言い、わたしが「おやすみ。」と見送ると、響希は帰って行った。

時刻は既に22時を指そうとしていた。

シャワーを浴びて寝よう。
響希が帰った途端に睡魔に襲われるわたし。

この日、わたしの夢の中には響希が出てきて、手を繋いでいる夢だった。

そんなことがあり得ないのは分かっている。
しかし、夢の中なはずなのに手のひらの温かさを感じた。

手のひらってこんなに温かいんだ。
夢の中だけでもいい。
夢の中だけでも、人の手の温かさを、響希の手の優しい温かさ感じることが出来て、わたしは幸せだった。