"あの時"以来あたしは兄に名前を呼ばれるのが嫌いだ。兄を見れば身体が震えそうになるし、触れられれば震えが止まらなくなる。



あたしは"あの時"から兄も怖い。



「守れだとか、ふざけんじゃねぇぞだとか」



あたしの前で泣きそうな兄に苛立ちが増す。



泣きたいのはあたしなのに。泣けないあたしの涙は"あの時"に枯れ果てた。



「ふざけてるのはどっちよ!」



廊下から微かに音がした。金色が来たのかも知れない。


だけど、あたしの言葉は止まらない。止めたくても止められなかった。言の葉は鋭い刃となって兄を責め立てる。



「ふざけないでよ!彼らに謝ってよ!」



そう叫んだ時金色が保健室に入ってきた。



「ごめん、」



小さな声で謝る兄の声。



「もう、あたしを解放してよ…。姫なんて辞めさせてよ」

「そ、れは」



叫ぶのに全身に力込めすぎて、息を吸い込んだとき力が抜けてしまってフラッと身体が床に崩れ落ちる。