いつも通り息を殺して授業を受けて迎えたお昼休み。
「行くぞ、ブス!」
あたしを呼ぶ灰色の声が聞こえて顔を上げれば、教室の入り口に灰色が面倒臭そうな顔をして立っていた。
今日の迎えは灰色か。
「…今行きます」
返事を返して鞄を持って立ち上がる。
「早くしろよ、こっちは腹減ってんだよ」
片足をパタパタと鳴らしながらあたしを急かす灰色。
「宇野さん、待たされて可哀想ぉ」
灰色の元へ行く途中聞こえてきた、宇野さんという名前に内心首を傾げる。
宇野さんって誰だ?
「宇野さんもあんな奴わざわざ待たなくて良いのにぃ」
「てゆーか、お迎えも要らないんじゃなぁい?」
聞こえてくる会話に、もしかしてと思う。
「おっせーぞ、ブス!」
もしかして宇野さんというのは灰色の名前なのだろうか、と。
高校に入学して早3ヶ月。
姫にさせられて早3ヶ月。
未だに、あの人達の……"龍神"の人達の名前は分からない。
かろうじて分かるのは、お互いを呼び合う名前だけ。
灰色だったら"コータ"とか。