息を吹きかけて湯気の出るココアを冷ます。
隣からチラチラと視線を感じて少しだけ笑いそうになる。笑ってしまいそうになるのをココアごと飲みこんでホッとする。
甘くて暖かくて好きなもの。
右隣りに座る灰色に、
「美味しい」
頬を緩めてそう言った。
「っ、当たり前だろ。俺が淹れたんだからな」
そんなあたしを見て意地悪く笑う灰色。
あたしはマグカップを両手で握り締めて残りのココアを堪能する。龍神の人達もそれぞれ自分のお昼ご飯に戻る。
そのゆったりとした空気にそういえばと思う。
そういえばこの部屋でこんなに和やかな空気は初めてだと。
いつもは張り詰めた空気だとか、あたしへ対する負の感情とかが立ち込めてるから。
あたしを心配する事自体が初めてで。それがとても擽ったい。
灰色はバレてないと思ってるのかチラチラとあたしを見ているし。金色は堂々とあたしを見て、ココアを飲んでることに安心している。
銀色は眉間にシワを寄せながらもあたしを見てるし。オレンジ色はあたしを睨んでるけど、さっきからあたしの残したカロリースティクを見てるし。
まだ食べろという事だろうか。これ以上食べるのはとても無理だけど。ココアを飲むだけで精一杯だ。
あたしがやっとの事でココアを飲み終わる頃には、龍神の人達はお昼ご飯を食べ終わっていた。
苦しいくらい満たされたお腹に段々瞼が落ちてくる。起きて教室に戻らなきゃ、と目を開けようとする。
けれどゆらゆらと揺れ出す身体に思考も鈍ってくる。
「おい?」
右隣りから灰色の声が聞こえた、と思ったらあたしの身体はゆっくりと傾く。
トンッ、と暖かい体温を身体の片側に感じたと思ったら、次の瞬間には真っ逆さまに意識が落ちていく。
「──?」
声が聞こえて、マリンの香りを最後にあたしは意識を手放した。