「……もうやだ」


本音が誰も居ない廊下に溶け込む。

ズルズルとその場にしゃがみ込んで、苦しくなった胸に手を当ててゆっくりと息を吸う。



大丈夫、大丈夫、大丈夫。




………大丈夫ってなにが?


何時まであたしは存在するの?


あぁ違った。



あたしはあたしを殺したんだった。
それならあたしは存在していない。



誰にも迷惑を掛けない、そんな存在が羨ましい。


あたしは存在する事が迷惑だから。



だからあたしはあたしを殺して存在をどうでもいいものにするの。


震える手が落ち着いて、呼吸がほんの少しだけ楽になったところでゆっくりと立ち上がる。


「…よし」



教室に戻る為に歩き出す。



同時にポケットで振動する携帯。


煩わしく感じながらもロックを解除して開けば、メッセージが1件。




──飯、ちゃっと食ったか?



それはあたしを、龍神の姫にした張本人からの心配の連絡。


食べた、と一言返事を送る。


兄は"あの時"から過保護が増した。


確かに理由が理由だけれど。
姫にするなんて馬鹿げていて迷惑なことはやめて欲しかった。



あたしが姫なんて立場に居る理由。
それは、紛れもなく兄の"所為"。