約束の土曜日。

真美は朝からお菓子作りに励み、潤が車で迎えに来てくれるのを待った。

約束の11時になり、エントランスに着いたとメッセージを受け取ると、すぐに部屋を出る。

「課長、こんにちは!」

タタッと軽やかにエントランスから出て来た真美に、潤は思わずドキッとした。

ペイルピンクのスカートに真っ白なコート、髪はふわりと緩いポニーテールで、何よりも笑顔が可愛い。

「こ、こんにちは」

潤はドギマギしながら、思わず目を伏せる。

一緒に暮らしていたのが嘘のように、今は緊張で目も合わせられなかった。

「今日はよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ。すごい荷物だな」

なんとか平常心を保ちながら、手を伸ばして大きな紙袋を受け取る。

「ふふっ、張り切ってケーキとクッキー作ってきました。がっくん、喜んでくれるかなー?」

そう言って真美は可憐に笑う。

そういうことか、と潤は落胆した。

まるで彼とのデートのような嬉しそうな笑顔は、岳に会えるからなのだ。

(俺、完全に岳に負けてる)

しょんぼりしながら、潤は助手席のドアを開けた。

「どうぞ、乗って」
「ありがとうございます」
「えっと、この紙袋は後ろの席に置いてもいい?」
「あ、そうですね……。ケーキが崩れちゃうといけないので、膝に載せます。代わりにこの紙袋を置かせていただけますか?がっくんへのプレゼントなんです」
「分かった」

岳へのね、と、細かいところまで嫉妬してしまう。

(4歳の、しかも甥っ子相手にみっともないな、俺って)

潤は小さくため息をつくと、気を取り直して運転席に座った。

「じゃあ出発するよ」
「はい!よろしくお願いします」

真美は満面の笑みを浮かべながら潤に頷く。

ふわりとポニーテールが揺れて、またしてもドキッとした潤は、赤くなる顔をさり気なく左手で覆いながらエンジンをかけた。