「えー、まみちゃんって、じゅんおじさんのフィアンセなんだー」

ゆずちゃんに言われて、真美はタジタジになる。

「う、うん。まあ」

フィアンセなんて言葉、どこで覚えるんだろうと思っていると、周りにわらわらと園児達が集まって来た。

「いつけっこんするの?」
「それは、もうちょっと先、かな?」
「なんてプロポーズされたの?」
「ええー?!それは、ちょっと、言えない、かな」
「うちのパパはね、ずっとおれがまもってやるって、ママにプロポーズしたんだって」
「ひゃー!かっこいいね。って言うか、そんなことまで教えてもらったの?」
「うん。おんなのこはね、ちゃんとプロポーズしてくれるひととけっこんしなきゃって、ママがいってた」

おおー、今どきの子育て事情ってすごい、と真美は感心する。

すると男の子達が話に入ってきた。

「プロポーズってさ、どういうのがいいの?」
「それはまあ、あいがこもってるやつ」

ゆずちゃんの答えに、うひゃ!と真美は首をすくめる。

(4歳児がサラッと、愛がこもってるって……)

そんな真美を尻目に、ゆずちゃんが場を取り仕切り始めた。

「じゃあ、おとこのこたち。いまからじゅんばんに、まみちゃんにプロポーズしてみて」
「は、はいー?ゆずちゃん、何を言って……」
「いいでしょ?まみちゃんは、だれがいちばんかをきめるの。じゃあ、だれからやる?」

おれー!とけいくんが手を挙げた。

「はい、じゃあけいくん。まみちゃんとむかいあって。いくよ?よーい、どん!」

どん?と思わず眉間にしわを寄せていると、けいくんが真顔で真美と向き合った。

「まみちゃん。おかしあげるから、かわりにけっこんしてくれ」

「カットー!」と、すかさずゆずちゃんが手を挟む。

「けいくんさ、まだあいをしらないわよね。おもちゃをゆずってもらうのとはちがうのよ?」
「えー、じゃあどういうのがプロポーズなんだよ?」

「おれしってるー!テレビでみた」と別の子が手を挙げて、ゆずちゃんは頷く。

「いいわよ。どんなやつだったか、やってみて、あっくん」
「わかった」

あっくんと呼ばれた子は真美の前まで来ると、片膝をついた。

「まみちゃん、これをうけとってくれ。パカッ!」

そう言って、合わせた両手を開いて見せた。

「きゃー!いいんじゃない?」と女の子達が盛り上がる中、ゆずちゃんが冷静に尋ねる。

「あっくん、そのパカッてやつ、なかみはなに?」
「え?かめはめは」

ガクーッと女の子達はー斉に滑った。

「もう、だんしってこれだからおこさまなのよ」

ゆずちゃんは両手を腰に当ててため息をつく。

「じゃあさ、がっくんやってみてよ」
「え、おれ?」
「うん。ほら、はやく」

背中を押されて、岳は真美の前に歩み出た。

「まみ……」
「う、うん」

緊張した面持ちの岳に、真美も思わずゴクリと喉を鳴らす。

「おれ、まみのことがだいすきなんだ。ずっといっしょにいてくれる?」

少し潤んだつぶらな瞳で、上目遣いに顔を覗き込まれ、真美は胸がキュンとした。

「うん。私もがっくんが大好き」

思わず抱きしめると、キャーー!!と一斉に黄色い悲鳴が上がった。

「いい!いまの、さいっこうにいい!」
「キュンキュンしたー!」
「やーん、すてきー!ね?せんせ」
「ほんと!もう先生のハートも鷲掴みされちゃったー!」

気づけばももこ先生も副担任の先生も、興奮気味に頬に手をやっている。

「じゃあさ、つぎはけっこんしきね。そのあとは、しんこんさんごっこ」
「いいねー!『いってらっしゃい、あなた』ってやつね?」
「はやく!おままごとセットもってきて」

おしゃまな女の子達に、真美はもう苦笑いを浮かべるばかりだった。