「がっくん、ぐっすり眠ってます」

岳が寝つくと真美はそっとベッドを抜け出し、リビングに戻った。

「ありがとう。紅茶でも飲む?」
「はい。いただきます」

潤はミルクティーを淹れてソファーに真美を促した。

「どうぞ」
「ありがとうございます。はあ、ホッとする」

岳がいないリビングは、ひっそりと静まり返っている。

潤は、会社から持ち帰った真美のパソコンを手渡して、事情を説明した。

「そうだったんですか。紗絵さんが一人残って片付けを……」
「ああ。俺が留守にしてたばかりに、悪かった」
「課長は何も悪くありません。誰のせいでもないです。でも、しばらくはテレワーク中心でってことは、私は有休の申請しなくてもいいってことでしょうか?」
「うん、大丈夫だ。またいつ大きな余震が来るかもしれないから、なるべく社員は出社させないようにって、隣の部署の部長に言われた。俺もしばらくは出社を控えるよ」
「じゃあ、課長もがっくんのそばにいてあげられますね。がっくん、喜ぶだろうな」

すると潤は少し苦笑いを浮かべた。

「どうだろ?なにせ『せっかくまみとふたりであそんでたのに』って、邪魔者扱いされたからな。岳にとっては、まみがいてくれるのが何よりなんだ。あいつ、本気でまみのこと好きなんじゃないかな?どうしよう、このまま大きくなって、まみと結婚したいって言い出したら……」

そこまで言って、潤はハッとした。

(俺、今、なんて言ってた?望月のこと、まみって……)

チラリと横目で様子をうかがうと、どうやら気づかれていたらしく、顔を真っ赤にしてうつむいている。

「ごめん!望月。俺、つい馴れ馴れしく……」
「いえ、大丈夫です」
「ほんとに悪かった。いくらうちにいるからって、職場の部下なのに」
「あの、どうぞお気になさらず……」