掃除を終えると、真美は冷蔵庫を開けてもいいかと潤に尋ねる。

「ああ、どうぞ。ご自由に」
「ありがとうございます。お昼ご飯の準備しますね」

だが冷蔵庫の中はスカスカで、真美は、うーん……と頭を悩ませる。

「ごめん。料理してないのがバレバレだな」
「いいえ。とりあえず今あるものでなんとかするのが主婦の技ですから。まあ。見ててください」
「ははっ、頼もしい」

真美は冷蔵庫から卵と牛乳を取り出して混ぜ合わせると、食パンの耳を切り落として半分に切ってから卵液に浸した。

次に玉ねぎを細かくみじん切りにしてから、飴色になるまでじっくりとバターで炒め、水を足してコンソメで味付けする。

煮詰めている間にハムを取り出し、縦に3等分してからくるくると巻いて、つまようじを刺した。

フリーザーを確認すると冷凍のミックス野菜があり、耐熱容器にブロッコリーやニンジンを並べ、とろけるチーズを載せる。

トースターに入れ、その横に先程切り落とした食パンの耳も並べて焼いた。

玉ねぎのコンソメスープを容器に入れて、カリッと焼いたパンの耳を浮かべると、冷蔵庫の奥にあったモッツァレラチーズを載せて再びトースターに入れる。

その間に卵液に浸しておいた食パンを、フライパンでバターたっぷりに焼いた。

「ご飯にしますよー」と声をかけると、潤と岳がダイニングテーブルにやって来た。

「おおー、いい匂いだな」
「うん!まみ、ごはんなに?」

真美は二人の前に次々と皿を並べる。

「はい、まずはフレンチトースト。それからこっちはオニオングラタンスープ。ブロッコリーとニンジンのチーズ焼きと、バラのお花のハム」

うわー!と二人は目を見張った。

「このバラ、食べられるの?」
「ええ、ハムですから。今盛りつけますね」

潤と岳のフレンチトーストの皿の端に、真美はつまようじを抜いたバラのハムを2つずつ並べ、その横にチーズで焼いた野菜も添えた。

岳は目を丸くして、じーっとハムを見つめている。

「ハムのバラ?え、バラとハム、どっちなの?」
「ふふっ、どっちもだね。ハムだし、バラなの」

真美の言葉に、岳はキョトンとする。

「なんか、ふしぎなきぶん」
「そう?じゃあ、不思議なバラのハム、食べてみて」
「たべてもいいの?だいじょうぶ?」
「大丈夫だよ」

いただきますと手を合わせると、岳はそっとハムを手に取り、じっくり眺めてからパクッと口に入れた。

「うん、ハムのバラ、おいしい!」
「良かった。フレンチトーストも食べてね」

真美はフォークとナイフで岳のフレンチトーストを小さく切り分ける。

「柔らかいから、がっくんでも切れるよ。
やってみる?」
「うん!」

立ち上がると真美は岳の後ろに立ち、手を添えて一緒に切っていく。

「上手!あとは一人でやってみてね」
「わかった。これでおれもセレブだな」

セレブー?!と真美はおかしくて笑ってしまう。

「いやでも、ほんとにセレブな気分だよ。まるでホテルの食事みたいだ」

潤がしみじみと言い、いただきます、とまずはオニオングラタンスープから食べ始めた。

「うまい!なんだこれ?食べたことない美味しさ」
「そうですか?レストランで食べたことありません?オニオングラタンスープ」
「あるけど、なんか粉末スープみたいにうっすーい味付けだったよ。それにこのチーズ!いい仕事してんなー」
「多分、課長のワインのお供のモッツァレラチーズかと思いますが、使わせていただきました」
「どうぞどうぞ。立派になったなー、お前」

チーズに語りかける潤に、真美はまたしても笑い出す。

「もう、課長もがっくんもおもしろ過ぎます。食事くらいでこんなに盛り上がるなんて」
「だってこんなにすごいんだもん。そりゃ、感激するよな、岳?……って、聞いてないな」

岳はほっぺたいっぱいに次々とフレンチトーストを頬張っては、真剣にナイフで切っている。

「ふふっ、良かった。がっくん、気に入ってくれたみたいで」
「それはもう!俺が用意する食事とは雲泥の差だからな。あー、望月が帰ったあとの岳の落ち込みが想像出来る。今から胃が痛いな」

顔をしかめてからまたスープを口にし、うまい!と潤は目を輝かせる。

真美も頬を緩めてから、食事の手を進めた。