ビルを出ると、外は真っ暗だった。
街灯や建物の明かり、全てが消えている。

(嘘、ここが本当に東京?)

真美は思わず呆然と立ち尽くした。

人々が慌ただしく行き交い、手にしているスマートフォンの明かりだけがぼんやりと浮かび上がる。

(連絡!課長に連絡しないと)

我に返って電話をかけてみるが繋がらず、音声案内が流れるだけだった。

(とにかく保育園に向かおう)

電車は止まっているだろう。
タクシーかバスで行くしかないと思いながら駅に向かうと、駅前は大勢の人でごった返していた。

バスもタクシーも見当たらない。
「帰宅難民」という言葉が脳裏に浮かんだ。

これなら会社に戻って一晩過ごした方がいいだろう。

自家発電でエアコンや電気もつくし、大規模地震を想定して毛布や備蓄食もある。
建物も免震構造だ。

だか真美に引き返す考えはなかった。

一刻も早く保育園へ!

真美は線路に沿って大通りを走り始めた。

どこかでタクシーかバスに乗れたら……

そう思っていたが、途中で諦めた。

車道はたくさんの自家用車で渋滞しており、ピクリとも動かない。
これなら走るのが一番速かった。

時折立ち止まると、鞄からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して飲み、息を整える。
そしてまた脇目も振らずに走り出した。

電車では20分ほどの距離だが、走ってみると気が遠くなるほど遠い。
はやる気持ちを抑え、とにかく保育園を目指す。

真美がようやく岳のいる保育園に到着したのは、2時間後。
夜7時を過ぎた頃だった。