「さてさて。それではギョウザを作りまーす!」
「イエーイ!」

部屋に帰って来ると真美は岳と潤に飲み物を出し、ささっと具材をみじん切りにしてからローテーブルに並べた。

「じゃじゃーん!いよいよギョウザパックンの登場でーす!」

真美はもったいぶってから、手の中に隠していたプラスチックの丸いプレートを岳に見せる。
縁が波型になっていて、真ん中で折りたたむだけでギョウザが形作れるようになっていた。

「これがパックン?」
「そうなの。ギョウザを作る天才だよ。まず、このパックンの上にギョウザの皮を置きます。がっくん、1枚置いてみて」
「うん」

皮を手渡すと、岳は真剣な顔つきでそっとプレートに載せた。

「ばっちりね。じゃあ次は、スプーンで具材をすくって、皮の真ん中に載せます。たくさん載せすぎるとはみ出ちゃうから、ちょびっとね」
「わかった」

岳はまたしても慎重な手つきで具材を載せる。

「オッケー!そしたら次に、人差し指で皮の縁にお水をつけます。1回私がやってみるから、見ててね」

真美は小皿に入れた水に指を浸してから、皮の縁をスッとなでるようにして濡らしていく。

「こんな感じ。ではいよいよ、パックンしまーす!がっくん、左手はここ、右手でここを持って。いくよー?パックン!」

岳の手に自分の手を重ねて、真美はプレートを2つに折りたたむように合わせた。

「ギューッてしたら、パックンを開いてみて」
「わあ、できた!」
「ね?ちゃんとギョウザになってるでしょ?」
「うん!パックン、てんさい!」
「あはは!がっくんも天才!」

岳は目を輝かせて、もういっかい!と身を乗り出す。

「うん。どんどん作ってね。具材も好きなの載せていいよ。チーズとコーンもあるからね」
「やったー!」

わくわくした様子で岳はギョウザを作っていく。
少し具がはみ出たり、綺麗に2つ折りにならなくても気にしない。

楽しそうな岳の様子に微笑むと、真美は潤の前に別の具材の皿を置いた。

「課長。こっちは大人用に生姜とニンニクを入れてあります。良かったら課長も作ってみてください」
「えー?出来るかな。俺にもパックンある?」
「ふふ、ないです。私達は自力でがんばりましょう」

そう言って真美は、手のひらに皮と具材を載せ、水をスッと滑らせてから慣れた手つきでギョウザにひだを作って閉じた。

「おお、上手いな、望月」
「そうですか?急いでるときはパックン使っちゃうんですけど、この作業も案外好きなんです」
「そうか。俺もパックン欲しかったな」
「100円ショップで売ってますよ」
「ええ?!すごいな、100円ショップ。今度俺も買いに行こう」

潤は真美の手元を見ながら、真似をしてギョウザの口を閉じていく。

「うーん、なんか変だな」
「大丈夫ですよ、ちゃんと出来てます。でも個性が出ますね。課長のは、男の手料理って感じで豪快です」
「望月のは芸術的に綺麗だな。ひだがすごく細かい」

3人でそれぞれ熱心に作業し、たくさんのギョウザが出来上がった。

「ふふ、どれが誰のか分かりやすい」
「確かにな」
「おれの、これー!」

ずらっと並べられたギョウザに、3人は笑い合う。

「では早速焼きましょうか。ホットプレート持って来ますね」

真美がキッチンの棚から取り出すと、立ち上がって潤が受け取りに来た。

「ありがとうございます」
「これくらい当然だ」

すると岳もやって来た。

「おれもはこぶー!」
「ありがとう、がっくん。そしたら、このごま油を持って行ってくれる?」
「うん!これくらい、とうぜんだ」

渋い顔で潤の口調を真似る岳に、真美は笑いが止まらなくなる。

「やっぱりがっくん、課長にそっくり!なんだか課長の子ども時代が想像出来ちゃいます」
「そうか?俺はもっと大人しかったけどな」
「そうなんですか?」
「うん。岳のこの性格は、絶対姉貴譲りだ」
「あ、なるほど」

真美は、以前この部屋でいきなりテレビ電話で対面することになった潤の姉を思い出す。
いかにもキャリアウーマンらしい、はつらつと明るく、笑顔が印象的な綺麗な人だった。

「がっくんとママの会話って楽しそうだな」
「うるさいのなんのって、もう」

顔をしかめる潤に笑いながら、真美はホットプレートを温めてごま油をひいた。
油が跳ねないように少し温度を低くしてから、岳に声をかける。

「がっくん。ここにギョウザを並べてくれる?熱いから、これを使ってね」

そう言ってフライ返しを渡し、岳がギョウザをすくってプレートにザーッと載せるのを手伝った。
全部載せると、綺麗に並べ直してふたをする。

「いい?焼き色がついたらお水を入れて、蒸し焼きにするの」
「ムシ?ムシをやくの?」
「え?あ、違うよ。虫じゃないの。蒸し焼きっていうのはね、お風呂みたいにモクモクした感じで焼くことを言うの」
「あー、ガラスがくもっちゃうかんじ?」
「そう。そんな感じよ。じゃあお水を入れるから、ちょっと離れててね」

岳が潤の膝の上に乗るのを見届けてから、真美はふたを少し開けて水を差し入れる。

「わー、じゅーっていった!」
「そうだね。ふたをすると、ほら!ふたが白く曇っちゃったでしょ?」
「うん!おふろみたい。ギョウザもおふろにはいるんだね」
「ふふふ、そうだね。がっくんといると、なんだかとっても楽しくてわくわくする。夢の世界に住んでるみたいだね、がっくん」
「そうか?おれ、おきてるけど?」

あはは!と真美は堪え切れずに笑い出す。

「ほんとに面白い。毎日がっくんに会いたいくらい。会社にもがっくんがいてくれたらなあ」
「ああ、おふぃすらぶ?」
「そう。がっくんとオフィスラブ」

ちょ、望月、と潤が顔を赤くするが、真美と岳はニコニコと笑顔で見つめ合っていた。