全てのプログラムが終わったあと、先生がマイクを持って話し始めた。

「えー、では最後に、保護者の方と一緒に園児達がダンスを踊ります。どうぞご協力ください」

ん?どういうこと?と真美と潤が首をひねっていると、子ども達がホールの客席に入って来た。

ママー!とそれぞれ保護者のもとへ嬉しそうに駆け寄り、手を引いて舞台下の広いスペースに連れて行く。

どうやらそこで、親子ダンスを踊るらしかった。

「まみ!」

岳に呼ばれて真美は振り返る。
王子様の衣装のまま、岳が駆け寄って来た。

「ほら、いくぞ?」
「え、ええ?!私が踊るの?」
「あたりまえだろ?ほかにだれがいるんだよ」
「えっと、潤おじさんは?」
「まみ、おれはおうじだぞ?おじさんとはおどらない」

確かに、と妙に納得してしまい、岳に手を引かれて前に歩み出た。

「それでは簡単にダンスの説明をしますね。園児達はバッチリ踊れますので、ぜひリードしてもらってください。みんな、よろしくね!」

はーい!と可愛い声が上がる。
簡単なレクチャーのあと、音楽が流れて、真美は岳と向かい合って手を繋いだ。

「はい、横に歩きます。いーち、に!反対も、いーち、に!くるっと回って両手をタッチ!」

先生の説明を聞きながら、何度か同じ動きを繰り返すうちに、だんだん息の合ったダンスになっていく。

潤は、岳と真美のダンスを動画撮影しながら、微笑ましく見守っていた。

二人とも笑顔で見つめ合い、楽しそうに手を取り合って踊っている。、

そのうちに潤は、なぜだか胸がドキドキし始めた。

(な、なんか俺、ものすごくラブラブなシーンを見せつけられてないか?)

水色のスカートをふわっと揺らしながら、くるりと回った真美は、岳に顔を寄せてにっこりと笑いかける。

岳も嬉しそうな笑顔を真美に向けていた。

(ちょっと待て。なんだ?あのキラキラした二人の顔は。目からハートビームが出てて恋人同士みたいじゃないか。知らなかった。望月って、あんなに可愛い顔するんだ)

そこまで考えてから、何を言ってるんだ?俺は!とハッとする。

だが、どうしても真美の笑顔を目で追ってしまい、そのうちに顔まで火照ってきた。

(いかん。保育園という健全かつ神聖な場で、俺はなんてことを考えているんだ?しかも望月は部下だぞ?あってはならん!こんな気持ち、間違っている。心を無にするんだ。半分目を閉じて、ぼんやりさせるんだ。しっかり見てはならん)

潤は必死に己に言い聞かせ、目を細めて視界をぼやけさせながら撮影を続けていた。