定例会議は滞りなく進み、特に深刻な問題点なく、順調にそれぞれの課が仕事に取り組めていることを確認して終了した。

潤が別の課の課長に声をかけられ、先に戻ってると断ってから会議室を出た紗絵は、またもや平木に捕まった。

「よっ!紗絵。たまにはサシで飲みに」
「行かない」
「はやっ!1拍くらい置けよ」
「時間の無駄」

スタスタと足早に歩く紗絵に、お前なあ、と平木は呆れる。

「俺が用もなくお前を飲みに誘うと思うか?」
「思う」
「うぐっ……。まあ、いつもはそうでも今回は違う。ちょっと話があってさ」
「今ここで言って。50文字以内にまとめて」
「出来るかよ?!」
「じゃあ、さよなら」

ちょ、紗絵!と平木は慌てて紗絵のあとを追いかけた。

「分かった!10文字で言ってやる。潤と望月ちゃんのことが心配なんだ」
「10文字じゃないじゃない……って、ええ?!今、五十嵐くんと真美のことって言った?」
「ああ、言った」

すると紗絵はグイッと平木のネクタイを掴み、人気のない休憩スペースに連れ込んだ。

「ぐえっ、紗絵、首が締まる。俺、こんなところで人生終わりたくない」
「とぼけたこと言ってないで。どういうことか説明しなさい」
「とぼけてねーよ!まったく」

平木はネクタイを締め直すと、小さくため息をついてから話し始めた。

「潤が望月ちゃんと会議室から出てくるところを2回見かけたんだ。しかも2度目は、望月ちゃん、泣いてた」

ええー?!と紗絵は大きな声を出してしまい、しまったと辺りを見渡す。
幸い誰も人の姿は見当たらず、ホッとしつつ平木ににじり寄った。

「それで?二人は会議室で何してたの?」
「知るかよ。だから心配してんだ。紗絵、同じオフィスにいて何か気づいたことないのか?」
「何もない。けど、さっき会議の前に五十嵐くんに真美の話題振られて驚いたんだよね。そうよ!そこであんたが邪魔しに現れて、聞きそびれたんだからね?」
「そんなこと言われたって……。じゃあやっぱり潤は、望月ちゃんと何かあったのか?つき合い始めたとか?」
「いや、だったら私に、最近真美の様子どう?なんて聞かないでしょ。五十嵐くんも理由が分からないながら、真美のことを心配してる。どういうことなのかしら。真美が何か悩んでるように感じたってこと?」
「俺に聞かれても……。それより俺は、潤が望月ちゃんを泣かせたのが気になってさ」

確かに、と紗絵は片手で頬を押さえて考え込む。

「それって最近の話よね?今月に入って、五十嵐くんが定時に上がるようになったのと関係あるのかしら」
「なんだそれ?望月ちゃんと一緒にか?」
「ううん。真美は逆に残業することが増えた」
「はいー?それなら無関係だろ」
「そうよね。でも、じゃあなんで?」

うーん、と二人で言葉もなく考えあぐねる。

「とにかく平木、今後も何かあったら知らせて。私も二人の様子を気にかけておくから」
「ああ、そうだな。とりあえず今はそうするしかないか」

そう結論を出し、二人は別れた。