「五十嵐くん、定例会議行くわよ」

いつもと変わりない仕事風景。
紗絵に声をかけられ、潤は「分かった」と立ち上がる。

行ってらっしゃいと課のメンバーに見送られて、二人は別の階の会議室に向かった。

毎月行われる定例会議では、ビジネスソリューション事業部に属するそれぞれの課長と課長補佐が一堂に会し、現在取り組んでいる案件や問題点を報告し合っている。

「今うちの課で抱えてる問題点、何かあるか?」

歩きながら潤は紗絵に尋ねる。
会議の前に、二人で同じ意識を共有しておく必要があった。

「んー、これと言って思いつかない。みんな相変わらず仲がいいし、仕事にも熱心に取り組んでくれてる」
「そうだな」

頷いてから潤はふと、以前岳の絵を渡した時に涙した真美のことを思い出す。

「あのさ。望月って、最近どう?」
「は?どうって、何が?」
「いや、だから……。変わったところはないかと思って」
「五十嵐くんの口から真美の名前が出てくるところが変わってる」

おい、と潤は真顔を紗絵に向けた。

「だってほんとにそう思うもん。なんでここで真美の話になるの?五十嵐くんこそ、真美と何かあった?」
「いや、別にないけど」
「じゃあなんで、最近どう?なんて聞くのよ」
「それはまあ、ほら。いつも昼休みに仲良さそうに話してるからさ。何か相談とかされてないかと思って」

紗絵がますます怪訝そうに口を開こうとした時、後ろから来た平木がガシッと二人の肩を抱え込んだ。

「よう!お二人さん。調子はどうだい?」
「たった今、悪くなった」
「なんだよー、紗絵。つれないなあ」

結局平木にその場を濁され、3人で会議室に入った。