それから数日後。

今日こそは!と意気込んで、真美は定時で仕事を終えた。

「お先に失礼します」と紗絵達に挨拶して、意気揚々とオフィスをあとにする。

潤は数分前に退社しており、真美は一緒にならないように、けれど遅れないようにと気をつけながら電車に乗った。

改札を出て急いで保育園に向かうと、ちょうど潤が岳と手を繋いで出て来るところだった。

「がっくん!」

大きな声で呼ぶと、顔を上げた岳がパッと笑顔になる

「まみ!」
「良かったー、会えて。がっくんに会いたくて急いで帰って来たの。元気だった?」
「うん、げんき。まみ、そんなにおれにあいたかったのかよ?」
「あはは!そうなの。もうがっくんに会いたくて会いたくて。それにお礼も言いたかったし。可愛くて素敵な絵をどうもありがとう!とっても嬉しかった」

すると岳は、照れたように目を逸らす。

「あんまりみるなよな。おれ、おえかきへただから」
「え?まさか!すっごく上手だよ。あんなに心がポカポカする絵を描けるなんて、がっくんすごいんだからね?」
「そうかな?」
「そうだよ。私もお礼にがっくんに絵を描こうかと思ったけど、絶対敵わないからやめたんだ」

真美が真顔でそう言うと、岳は驚いたように目を丸くする。

「まみ、おえかきへたなんだ?」
「うん、へたなの」
「そっか。まあ、だいじょうぶだよ。まみは、りょうりがうまいからな」
「ふふっ、ありがと。あ、じゃあお礼にご飯作らせてくれる?」

ええ?!と、それまで黙って聞いていた潤が声を上げる。

だが既に岳は、やったー!と飛び跳ねて喜んでいた。

「課長、よろしければこれからうちで、ごちそうさせていただけませんか?」
「いや、こっちは構わないけど。迷惑じゃない?」
「私からお誘いしたんですから、迷惑な訳ないです。がっくん、行こうか」

うん!と返事をして、岳は真美と手を繋ぐ。

「何食べたいー?がっくん」
「えっとね、オムライス!」
「お、いいねー。お絵描きオムライスにしようか」
「まみ、おえかきへたなんじゃないの?」
「うん。だからがっくんが描いてね」

仲良く繋いだ手を揺らしながら歩く真美と岳を、潤は後ろから微笑ましく見守っていた。