ワンルームマンションへと向かいながら、真美は頭の中で妄想を膨らませる。

(あれってやっぱり、そういうことよね?つまり、五十嵐課長のお子さん)

仕事を終えていつものように家路につき、自宅の最寄駅で電車を降りた。

駅前の大通りを少し歩いて路地に入ったところに保育園があり、そこから父親と息子らしき親子が出て来て何気なく目を向けたまではいつも通りだった。

その父親というのが、同じ会社の上司である課長だったことを除いては。

(五十嵐課長って、てっきり独身だと思ってた。若いしイケメンだし、狙ってる女子社員も多いしね。第一、結婚してるなんて誰からも聞いたことなかったもん。いや、待てよ?お子さんがいるからって、結婚してるとは限らないか。知られたくない事情があるのかも。さっき課長、なんだか妙に焦ってらっしゃったし)

明らかに困惑していた様子を思い出す。

(そりゃ、大人なんだもん。色々あるよね。離婚してシングルファーザーとして育てているとか?)

それにしては、今まで保育園の前で見かけたことは一度もなかった。

(うーん、つい最近離婚したとか?そう言えば課長、いつもは残業するのが当たり前なのに、ここ最近、毎日定時で帰ってたもんね)

そう考えると納得がいく。
だがあれこれと詮索するつもりはない。

何にせよ、会社ではきっちり仕事とプライベートは切り離して、課長とはこれまで通りに接しようと真美は自分に言い聞かせた。