「岳、今日はかっこ良かったよー。がんばったね。晩ご飯、何がいい?」
「んーと、カレーライス!」
「お、いいね!ニンジンはハートにして、チーズはお星さまの形にしようか」
「うん!」

祖父母と小学校で別れたあと、都と樹と岳は、また仲良く手を繋いでマンションに帰って来た。

3LDKのマンションは、樹一人だと広すぎてガランとしていたが、今ではすっかり家族3人の住まいとなっていた。

「あれ?まみだ!」

マンションのエントランスに佇んでいる真美を見つけると、岳は都達と繋いでいた手を解いて一目散に駆け寄った。

「まみ!」
「がっくん!入学おめでとう。どうしてもがっくんのランドセル姿が見たくて、来ちゃったの」

そう言って照れたように笑う真美は、臨月に入ってお腹もかなり大きい。

「かっこいいね、がっくん。はい、入学のお祝い」
「ありがとう!あとであけてもいい?」
「もちろん。あ、その前にがっくんの写真撮ってもいい?潤さんにも送ってあげたいんだ」
「おお、いいぜ」
「ふふ、ありがと」

真美はマンションのアプローチにある桜の木の下に岳を連れて行く。

「わあ、桜がとっても綺麗。がっくんの入学をお祝いしてくれてるみたいだね。じゃあがっくん、笑ってね」

はい、チーズ!と真美は何枚か写真を撮った。

「うん!かっこいい!じゃあ、今度はお父さんとお母さんも一緒に入ってもらおうか」

都と樹にも声をかけ、親子3人の写真も撮る。

「じゃあ、つぎはまみと!」

岳が真美の手を取ると、都はハイハイと頷いてシャッターを押した。

「とってもいい写真!がっくん、ありがとう」

スマートフォンで写真を見返していると、不意に岳が真美の手を引いた。

「まみ、みて」
「ん?どうしたの?」
「あそこにタンポポさいてる」
「え……」

岳の指差す先を見ると、道の片隅にひっそりと咲いている1輪のタンポポがあった。

「ほんとだ、あんなところに咲いてたんだね」
「うん。かわいいね、タンポポ」

ひらひらと桜の花びらが舞い落ちる下で、岳が見つけた小さな花。

誰もが美しい桜に目を奪われる中、岳に見つけてもらえた1輪のタンポポ。

真美の胸に温かい幸せが込み上げてくる。

「うん。可愛いね、タンポポ。見つけてくれてありがとう、がっくん」

優しい笑顔で岳に頷いてみせると、岳もにっこりと笑い返してくれた。

真美は心の中で語りかける。

愛する潤へ、まだ見ぬ我が子へ。

大好きな岳へ、都へ、樹へ。

大切な家族へ、友人へ。

『この世界のどんな片隅にも、幸せは溢れているんだね』

優しい人達と共にいられる喜びと愛しさを胸に、真美はもう一度小さなタンポポに目をやって微笑んだ。

(完)