厳かな雰囲気で、樹と都の結婚式が始まる。

シルバーグレーのタキシードに身を包んだ樹が先にチャペルに入場し、続いてマーメイドラインのウエディングドレス姿の都が、父親と腕を組んで現れた。

「お姉さん、とっても綺麗……」

涙ぐむ真美の肩を、潤がそっと抱き寄せる。

どんなにこの日を待ち望んだことだろう。
二人にとっては奇跡のような、それでいてこうなる運命だったとも言える特別な瞬間。

潤と真美は惜しみない祝福の拍手を二人に送った。

しっかりと腕を組んだ二人は見つめ合い、微笑み合って後方の扉に向き直った。

「それではこれより、お二人の愛の証となる結婚指輪を運んでいただきます。リングボーイを務めてくれるのは、お二人の5歳のお子さん、 岳くんです。皆様、どうぞ大きな拍手でお迎えください」

扉が開かれると、二人の大切な宝物、岳が姿を現した。

ゆっくりと真っ直ぐに、二人のもとへとやって来る。

都と樹は互いの手にギュッと力を込め、涙を堪えながら岳を見つめる。

ついにたどり着いた岳を、二人はしゃがみ込んで抱きしめた。

「岳、ありがとな」
「ありがとう、岳」

3人で抱きしめ合う姿に、樹の両親も涙を流す。

樹がリングピローを受け取って岳の頭をなで、都は岳に左の頬を差し出した。

が……

岳はくるりと背を向け、スタスタと列席者の席に戻ると、真美と手を繋ぐ。

「え、ちょっと、岳?ママにチュウしてくれないの?」
「おとうさんにやってもらいなよ」
「ええー?」

あはは!と列席者の間から笑い声が上がった。

ムッと拗ねた顔をする都に、樹が苦笑いしながら手を差し伸べる。

「ほら、都。拗ねてないで。俺が岳の分まで熱いキスをしてやるよ」

耳元で囁く樹に、都は顔を真っ赤にする。

「可愛い。都にもこんなウブな一面あったんだな」
「な、なによ。人を化け物みたいに言わないで」
「とんでもない。都は岳の頼れるママだけど、俺にとっては可愛くて愛しいお嫁さんだよ」

都はもう返す言葉もなく、赤い顔のままうつむくばかりだった。