それから半年後の12月。

いよいよ樹と都の結婚式の日がやって来た。

式場はもちろん、真美と潤が式を挙げた三原グループのホテルだ。

真美は花嫁の控え室にお邪魔し、岳にタキシードを着せて準備を手伝う。

「がっくん、楽しみだね!今日もかっこいいよ」
「うん。まみ、おれのことちゃんとみてろよ?」
「分かった。しっかり見てるね。写真もいっぱい撮っちゃうから」

微笑み合う二人に、ドレッサーでメイクされている都がヤレヤレとため息をついた。

「岳、ママとお父さんに指輪届けてよ?真美ちゃんのところに持って行かないでよね?」
「あ、そうか。まちがえるところだった。あはは!」

もう、大丈夫なの?と都は眉根を寄せる。

岳の前にしゃがんでタキシードを整えていた真美が、「うん!これでよし」と頷いてから立ち上がった。

「よいしょっと。ふう……」

紺色のワンピースの上から、膨らみ始めたお腹をなでる真美に、都が気遣うように声をかける。

「真美ちゃん、体調は大丈夫?無理しないでね」
「はい、ありがとうございます。もうつわりも治まったし、安定期に入ってひと安心です」

すると岳が真美のお腹にそっと顔を寄せて話しかけた。

「あかちゃーん。はやくでておいでー。いっしょにあそぼうね」
「ふふっ、ありがと。がっくんが小学校に入学する頃に生まれるよ。ランドセル、見せてあげてね」
「うん!たのしみだなー。ランドセル、おじいちゃんとおばあちゃんがクリスマスにかってくれるんだって」
「そうなのね!良かったねー」

嬉しそうな岳を、都は鏡越しに優しく見つめる。

結婚が決まってから、樹と都は岳を連れて樹の実家に行った。

両親は岳に目尻を下げっぱなしで、既にたくさんのおもちゃとお菓子を買って待っていた。

岳は広いお屋敷に驚いて、ここならラジコンを思い切り走らせられる!と喜び、今では月に1、2回のペースで遊びに行っている。

幼稚園の運動会やおゆうぎ会にも招待すると、二人ともまるで若返ったかのように岳の姿に嬉々としていた。

もちろん、今日の結婚式も心から楽しみにしている様子だった。

「ではお姉さん、がっくんと先にチャペルに行ってますね」
「うん。ありがとう、真美ちゃん」
「行こうか、がっくん」

うん!とニコニコの笑顔を浮かべる岳と見つめ合い、真美は手を繋いで控え室を出た。

「真美、大丈夫か?」

すぐそばの廊下で待っていたスーツ姿の潤が、腕を伸ばして優しく真美の肩を抱く。

「ええ、大丈夫です」
「お腹は苦しくない?何かあったらすぐに教えろよ?」
「はい」

潤は真美のお腹をそっとなでると、肩を抱いたまま歩き出す。

「でもさ、よかったな、じゅん」

真美と手を繋いでいる岳が、歩きながら話し出した。

「ん?良かったって、何が?」
「こうのとりさん、すぐにきてくれてさ」
「ああ、そそそうだな、うん」

なぜだか真美よりも潤の方が動揺してしまう。

誰かに聞かれなかったかと、潤は辺りをキョロキョロした。

「おれ、またこうのとりさんに、おてがみかこうかな」

岳の言葉に真美が「なんて?」と尋ねる。

「じゅんとまみにあかちゃんをありがとう。こんどは、ママとおとうさんのあかちゃんをおねがいしますって」
「わあ、素敵!いいね、がっくん」
「だろ?かえったらいっしょにかこうぜ、まみ」
「うん、書く!こうのとりさん、私と潤さんに赤ちゃんを授けてくれてありがとう。次はお姉さんと樹さんと岳くんのもとに、可愛い赤ちゃんを届けてくださいって」
「うん!」

二人はまたニコニコしながら見つめ合った。