それから数日後。

仕事を半休にして、都は一人、大きなお屋敷の前に佇んでいた。

ここに来るのは6年ぶり。
あの時の辛い記憶が蘇ってきて、心が折れそうになる。

だがグッと拳を握りしめてインターフォンを押した。

「はい、どちら様でしょう?」

おそらくお手伝いの人だろう。
年配の女性の声で返事があった。

「お約束もせず突然申し訳ありません。わたくし、五十嵐 都と申します。もしご在宅でしたら、ご主人にお目通り願えませんでしょうか?」
「旦那様にですか?かしこまりました。えっと、いがらし、みやこさんですね?少々お待ちくださいませ」

品の良いおばあさん、といった口調で言われて、都は「はい」とその場で待った。

樹の父親はもう70歳手前で、仕事の第一線からも退いているらしい。

(今日もお休みだといいんだけど)

そう思って待っていると、しばらくして大きな門扉の向こうの玄関が開き、エプロン姿で髪をまとめたおばあさんがゆっくりと歩いて来た。

都のいる門まで来るのに、3分はかかっただろう。

「お待たせいたしました。中へどうぞ」
「はい、ありがとうございます」

おばあさんについて、都は玄関へと向かった。

長いアプローチを通り抜けながらふと目をやると、広い駐車場に黒塗りの高級車が停まっている。

(6年前、夢中であの車に飛び乗って、運転手さんに早く出して!と叫んだなあ)

当時のことを思い出しながらゆっくりと歩き、ようやく玄関に着いた。

「こちらへどうぞ。和室で旦那様と奥様がお待ちでいらっしゃいます」
「はい、失礼いたします」

靴を脱いで上がり、おばあさんに先導されてたどり着いたのは、6年前と同じ和室だった。

「失礼いたします。五十嵐 都様をお連れしました」
「どうぞ」

おばあさんに返事をした低い声に、都の緊張は一気に高まる。

だがここでひるむ訳にはいかない。
今日は固く決意してやって来たのだから。

「失礼いたします」

都は、おばあさんに続いて和室の中に入った。