穏やかな毎日が続く。

真美の左手薬指に輝く指輪は、色んな人を驚かせた。

同性婚?!と勘違いした若菜。

両思いになったんだ……と、肩を落とした平木。

おやおやー?と潤に疑いの目を向ける紗絵。

そんな中、真美と潤はどこか余裕を漂わせながら、涼しい顔で仕事をこなしていた。

うちに帰れば途端に甘く愛を囁き、潤は片時も真美を離さない。

結婚の時期についてはやはり保留のままだったが、真美には何の不満もなかった。

だが、都と樹の胸中は複雑だ。

婚約指輪を贈られた真美は、都達にも「とっても可愛い指輪をありがとうございます!」と笑顔で礼を言ったが、その後潤に尋ねてみても結婚の話は進めていないと言う。

岳や自分達に配慮しているからだと、都と樹は心が痛んだ。

そして二人で相談し、いくつか大安吉日の週末を選ぶと、三原グループの例のホテルの結婚式をひと枠押さえておくことにした。

真美と潤がいつでも式を挙げられるようにと。

実家の両親にも伝え、その日はオーベルジュの予約を入れないようにしてもらった。

そんなある日。
直前に迫ったゴールデンウイークにみんなでどこかに遊びに行こうと、潤と真美は都のマンションに相談に来た。

「がっくん、行きたいところある?」
「うんとね、どうぶつえん!」
「いいね!じゃあ、お弁当作ってみんなで行こうか」
「やった!」

早速大人達で行き先の相談を始める。

「潤くん、俺ワンボックスカー買ったんだ。だからこれからは、俺の運転で行こう」
「おー、いいですね!じゃあこれからは樹さんの車に乗せてもらいます。運転は俺も代わりますから」
「ありがとう」

都と真美はお弁当の相談をするが、「真美ちゃーん。おかずはよろしくね。私、おにぎりだけせっせと作るから」と都は手を合わせて真美を拝んでいた。

「ふふっ、はい。お任せください」

そう言って微笑んだ真美は、岳が冷蔵庫からお茶を取り出して、ガラスのコップに注いでいるのに気づいた。

見守っていると、コップからお茶が溢れて床にこぼれる。

「あーあ、やっちゃった」
「大丈夫だよ、がっくん。すぐに拭くからね」

真美は立ち上がるとキッチンペーパーで床を拭いた。

「がっくん、靴下濡れてない?」
「うん、だいじょうぶ」
「床、滑りやすいから気をつけてね」

アルコールを吹きかけてから仕上げに拭き上げていると、すぐ横を通り過ぎた岳が案の定つるんと足を滑らせる。

「危ない!」

咄嗟に腕を伸ばして岳を受け止めた真美は、中途半端に踏み出した左足をひねってしまった。

ズキッとした痛みに顔をしかめていると、岳が下から覗き込んでくる。

「まみ、いたいの?」
「ううん、平気だよ」

すると潤がやって来て、真美の横に片膝をついた。

「真美、どうした?」
「大丈夫。少し足首をひねっただけだから」

そう言って立ち上がろうとする真美を、潤は軽々と抱き上げる。

「え、ちょっと、潤さん!」

恥ずかしさに顔を真っ赤にする真美に構わず、潤は真美をソファまで運ぶ。

そっと座らせると、真美の左足首に手を添えた。

「内側にひねったの?こうすると痛い?」
「うっ……、はい。少し」
「軽い捻挫だな。安静にしてろ。姉貴、湿布ある?」

あるわよ、と都が救急箱を持って来て中から湿布薬を取り出す。

潤は真美の足首にゆっくり貼ると、その上から包帯を巻いた。

「これで今日一日様子を見よう」
「はい、ありがとうございます」

顔を上げた真美は、心配そうに少し離れたところから様子を見ていた岳に声をかける。

「がっくん、おいで」

岳はおずおずと近づくと、真美に「だいじょうぶ?」と小さく尋ねた。

「大丈夫だよ。お膝においで」

真美は岳を膝の上に座らせてにっこり笑う。

「すぐに治るからね。動物園にも行けるよ。お弁当たくさん作って持って行くからね」
「うん!」

岳はホッとしたような笑顔を浮かべた。