「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございました。お誕生日おめでとうございます。またのお越しを心よりお待ちしております」
「また伺います。ありがとうございました」

レストランのスタッフに笑顔で挨拶した真美に、潤は優しく手を差し伸べる。

「真美、行くよ」
「はい」

腕を組んでエレベーターに乗ると、潤は35の階数ボタンを押す。

「え?潤さん。駐車場は地下じゃない?」

真美がキョトンと顔を見上げてくる。

「そうなんだけど、ちょっとね」
「ちょっと、なに?」
「ん?だから、ちょっとそこまで」
「お買い物?」
「そうそう、大根買いにね。って、違うから」

その時、ポーンと扉が開いて、タキシード姿のスタッフがうやうやしく頭を下げるのが見えた。

(うわっ、テジャヴ?いや違う。2度目ましてだ)

潤は確信する。
おそらくこれは、都と樹の仕業だ。

(姉貴に今夜このホテルのレストランに行くこと話したからなあ。そこから樹さんが全て手配してくれたんだろう)

フレンチレストランでもお会計は請求されず、予約した部屋も以前と同じスイートルームに変更してくれたに違いない。

「ねえ、潤さん。一体どういうこと?」

真美が小さく尋ねてくる。

「ん?まあ、樹さんからの誕生日プレゼントかな?」
「ええ?!何が?」

するとスタッフが、にこやかに話しかけてきた。

「五十嵐様、本日もようこそお越しくださいました。お部屋にご案内いたします。どうぞ」

そう言って歩き始めたスタッフについて行くと、案の定以前と同じ部屋に案内された。

しかもテーブルには豪華なバラの花とホールケーキ、シャンパンにフルーツの盛り合わせが用意されている。

「こ、これは、一体……」

真美はもはや呆然と呟くばかりだった。

「お誕生日おめでとうございます、お嬢様。何かありましたら、いつでも内線でお申しつけくださいませ。それでは、失礼いたします」
「はい、ありがとうございます」