3月になり、最初の土曜日に、岳の保育園でお誕生会が開かれることになった。

3月23日が誕生日の岳は、この日ステージに上がってお祝いされるらしい。

可愛い手書きの招待状をもらい、真美も潤と共に、都や樹と一緒に保育園に向かう。

「がっくん。お誕生日プレゼント何がいい?」
「んー、まみがつくってくれるケーキ!」
「そうなの?嬉しいな。じゃあがんばって作るね」
「うん!」

保育園に着くと岳はクラスの部屋に行き、保護者はホールで待つように言われた。

「ちょっと、樹?ガチガチじゃない。大丈夫?」

小さな椅子に座り、長い足を持て余している樹は、まるで面接を受けるかのように姿勢を正して固まっている。

都が声をかけるとハッと我に返った。

「ごめん、なんか、こんな気持ちは初めてで……。俺、泣きそうなのを必死で堪えてるんだ」
「はっ?!どこに泣く要素があるのよ」
「今この空間に座ってることが、俺にとってはもはや奇跡」

ヤレヤレと都はため息をつく。

「離れて座ろうっと。他人のフリして」
「ええ?ちょっと、都!」

その時、ガヤガヤと賑やかな声がして、園児達がホールに入って来た。

保護者の椅子の前に並び、手にしていた座布団を敷いて座る。

「か、可愛い!なんだこの天使達は」
「大げさね、まったく」
「岳は?俺の可愛い岳はどこにいる?」
「今月がお誕生日の子は、あとでステージに登場するの」
「主役か!岳が主役なんだな!」
「だーかーらー、今月がお誕生日の子!他にもたくさんいるわよ」

都と樹のやり取りに、真美は思わずクスッと笑う。

しばらくすると、先生がマイクを持って話し始めた。

「みなさん、おはようございます」
「おはようございます!」

園児達が声を揃える。

「元気にご挨拶が出来ましたね。みんな、今日は何の日かな?」
「おたんじょうかいー!」
「そうです。3月がお誕生日のお友達を、みんなでお祝いする日です。ではみんなでお友達を呼んでみますよ。せーの!」

「おたんじょうび、おめでとうー」

大きな声が響き、園児達の拍手の中、首にメダルをかけた今日の主役達が現れた。

「が、岳!岳だ。都、あそこに岳がいる。かっこいいぞ、岳!」
「うるさい!」

興奮する樹を、都がジロリと睨んで一蹴する。

「それでは一人ずつマイクでご挨拶してもらいます。そらぐみさんからどうぞ」

年長クラスの園児から順に、マイクで名前と誕生日を言っていく。

年長クラスの次は、岳達のクラスだ。

「たいようぐみの、いがらし がくです。おたんじょうびは、3がつ23にちです」
「いいぞ!が……ふがっ」

樹の口をガバッと都が塞ぎ、周りの保護者に笑顔で会釈する。

「いい加減静かにして!岳に嫌われても知らないからね」
「いかん!それは困る」

ピタリと樹は大人しくなった。