そっと部屋をあとにした潤と真美は、1階の談話スペースに行き、暖炉の火を眺めながら語り合った。

「良かったですね、樹さんもお姉さんも。やっと今、親子3人で一緒にいるんですね」
「そうだな。樹さん、本当に嬉しそうだった」
「ええ、お姉さんも。これから少しずつ、家族の時間が増えていきますね」
「ああ。岳と樹さんの絆も深まっていくよ、きっと」
「はい。これから毎年お正月は、みんなでここに集まれるといいな」
「必ず集まろう。俺達にもいつか子どもが生まれたら、岳ともっと賑やかに遊べるよ」
「そうですね、楽しみ!」

パチパチと薪が燃える音は心地良く、二人は自然と肩を寄せ合う。

「真美」
「はい」
「俺達家族の為に、いつもありがとう。これから姉貴と岳は、樹さんとの関係を手探りで築いていくことになる。真美、どうか岳を支えてやって欲しい」

真剣な眼差しを向けられて、真美はしっかりと潤に頷いた。

「はい、もちろんです。これからもがっくんの様子を見守っていきます。何がゴールなのかは分からない。がっくんが樹さんをパパと呼ぶことが正解とも限らないですよね。毎日を穏やかに幸せに過ごして、これからのがっくんの成長を、お姉さんと樹さんが二人で見つめていけたらいいなと思います」
「そうだな。それから真美、忘れないで。俺はいつだって真美のそばにいる。どんな時も真美を守る。決して一人で寂しい思いはさせない。明日東京に帰ったら、明後日、真美の埼玉の実家に挨拶に行く。結婚を認めてもらえるように、しっかりお願いする。だからそのあとは、俺のマンションに引っ越して来てくれる?」
「潤さん……」

岳や都達の大事な時期だからと気を取られていた真美は、変わらずにいつも自分のことを想ってくれていた潤に胸が詰まった。

「はい。ずっと潤さんのそばにいさせてください」
「ありがとう、真美」

潤は真美の肩に手を置いてそっとキスをする。

うっとりと目を閉じた真美は、それと……と言葉を続ける潤に顔を上げた。

「あのさ、真美。岳としゃべる時、もうちょっと顔を離して」
「……は?え?一体、何のお話ですか?」
「だから、近過ぎるっての!なんかこう、いつかチューしちゃいそうでハラハラする」
「はいー?私とがっくんがですか?」
「うん」
「課長、本気でそんな心配を?」
「当たり前だ!しかもなんだ?今、課長って言ったな?」
「ああ、すみません。ついうっかり」

ウキー!とゴリラのように潤はむきになる。

「なんで俺ばっかり翻弄されっぱなしなんだよ!いいか?真美は俺の女だ。真美に触れていいのは俺だけだぞ!真美、余裕ぶってられるのも今のうちだからな。ちゃんとご両親に許可をいただいたら、その時は容赦しない。俺の本気を見せてやる!」

ひえ!と真美は思わず後ずさった。

「あ、あの、課長。一体何をなさるおつもりで?」
「今は教えない。けど覚悟しとけ。どんなにヒーヒー泣いても俺の腕から逃がしてやらないからな」
「ええー?!あの、怖いんですけど」
「大丈夫だ。思いっっっ切り愛してやるだけだから」
「こ、怖い」

本気で怯えると、潤はふっと笑った。

「じゃあ、予告編だけな」

そう言って真美を胸に抱きしめると、甘く優しくとろけるようなキスをした。