「まみー、どこのへやでねる?」
「えー、迷っちゃうね。どのお部屋もとっても素敵!」

全室10部屋のオーベルジュは、少しずつ広さや家具の配置も変わっていて、それぞれに趣がある。

「このお部屋、天井がガラス窓になってるのね。ベッドでお星さまを見ながら寝られるよ、がっくん」
「すげー!ここでねよう、な?まみ」

えっと……と、真美は戸惑って都を振り返った。

岳と都が一緒に寝るのは分かるが、そう言えば自分はどこで寝ればいいのだろう?
部屋が空いているから、一人で?

そう思っていると、都が岳を抱き上げた。

「岳、今夜はママと二人でこのお部屋で寝ようか」
「ええー?まみとじゅんといっしょにねたい」
「へ?ママは?」
「まあ、いっしょにいてもいいけどさ」
「何よそれー?ママが邪魔者みたいじゃないよ」

まあまあと、真美は二人を取りなす。

「そしたらがっくん、このお部屋でみんなでパジャマパーティーしようか。お風呂のあとにみんなでおしゃべりするの。コロも一緒にね」
「うん!するー。まみ、だいすき!」
「ふふ、じゃあそうしようね」

そして真美は都達に囁いた。

「がっくんが寝たら、引き揚げますから」
「分かったわ。岳、興奮してなかなか寝ないかもしれないけど」
「それも良い思い出になりますよ、きっと」
「ええ、そうね。真美ちゃん、ありがとう」
「いいえ。私も楽しみです」

夕方になると、真美は厨房に入って料理の手伝いをする。

「わー、なんて美しい盛り付けなの。お父さんのニンジンの切り方、もはや芸術です」
「そうかい?嬉しいなあ。じゃあ真美ちゃんにはニンジン1本分切っちゃうよ」

デレデレと鼻の下を伸ばす父に、母が突っ込む。

「お父さん、真美ちゃんはうさぎじゃないんだからね」
「いやー、うさぎよりも可愛いよ」
「お父さん!」

ヒイッと首をすくめてから、今度は大根を透けるほど薄くむいていく。

「すごい!お父さんの桂むき、透き通ってます。それにこんなに薄いのに、途中で切れたりしないし。本当に職人技ですね」
「いやー、そんなに褒められるとは。このあとこの大根を繊維に沿って切ると、こんなふうに立てて盛り付けられるんだ。縦けんって言ってね。逆に繊維を垂直に切ると丸くまとまる。これが横けん」

へえ、と真美は感心して眺める。

「フランス料理ではあんまりやらないけど、今日はお正月だからおせち料理にしたくてね。真美ちゃん、よかったら一緒に野菜の飾り切りやってみるかい?」
「はい、ぜひ!教えていただきたいです」

目を輝かせる真美にデレデレが止まらない父は、次々と切って見せた。

ニンジンの『ねじり梅』大根の『扇』かぶの『菊』れんこんの『花』と『雪の結晶』

見よう見真似でやってみる真美に、父はひたすら目尻を下げる。

「上手いなあ、真美ちゃん。筋がいいよ。じゃあ今度は『蝶々』と『亀』もやってみるかい?ラディッシュで『てんとう虫』も出来るよ」
「素敵!がっくんが喜んでくれそうですね」

野菜ばかりがどんどん切られていく中、煮物を作りながら母がぼやく。

「息子と孫に混じって、父親まで真美ちゃんを取り合うなんて。もう家族争奪戦みたい。うちの男家系ってタイプが似てるのね。ちゃっかり遺伝して、ご立派な血筋ですこと。血統書つけちゃう」

その時「出来た!」という真美の声に「いいねー!」とご機嫌な父の声が重なり、母は大きなため息をついた。