「えっと、まずは。お父さん、お母さん。ずっと今まで話さずにいてごめんなさい。この人が岳の父親です」

最初に都が口を開いた。
当時を振り返り、順を追って説明する。

結婚の約束をし、樹の実家に行って初めて素性を知ったこと。
一方的に別れを告げ、こつ然と姿を消したこと。
妊娠が分かり、一人で産んで育てる決意をしたこと。
ずっと音信不通だったが、樹が自分を探し出してくれたことを。

「なるほど、そういう訳だったのか」

話を聞き終えた父は、両腕を組んで大きく息を吐き出した。

「あの時都から、彼と別れたから一人で出産すると聞いた時、母さんと話したんだよ。きっとお相手の方が、妻子ある方だったんだろうなって。でもまさか、三原ホールディングスの御曹司だったとはなあ。それで三原さんは、今後どうされたいのですか?」
「はい。私はもう二度と都さんを手放すつもりはありません。これまで大変な思いをさせてしまった分、これからは私が彼女をこの手でお守りします。そして岳くんも。父親だと認識されなくても構いません。たとえ近所に住むおじさんとしてでも、私は二人が幸せに暮らせるようにずっと近くで見守りたいと思っています。大変な時にそばにいなかった私が、今頃になってこのようなことを申し出ることに大変ご立腹かと存じます。どんな償いもさせていただく所存でございます。どうか、私が都さんと岳くんをお守りすることをお許しいただけませんでしょうか?なにとぞ、お願いいたします」

深々と頭を下げる樹に、両親は落ち着いた声で話しかけた。

「お顔を上げてください、三原さん。我々はあなたを責めるつもりなどありません」
「そうですよ。誰も何も悪くない。みんながそれぞれ一生懸命に生きてきたんじゃありませんか?都も岳も、そしてあなたも。大変な思いをしながら、ずっと都を探し続けてくださった。まあ、都がこんなに頑固者じゃなければ、もっと違った道があったんじゃないかとお母さんは思わないでもないけどね」

そう言って母は都にふふっと笑う。

「それも含めて都だから。でもね、こうして家族3人がようやく巡り逢えた。そしたらもう、あとはちゃんと幸せにならなきゃ。ね?都」
「お母さん……」

都の目からとめどなく涙が溢れ出す。

樹はテーブルの下で、そっと都の手を握りしめた。