「元旦って、高速道路ガラガラだな」
「そうだね。昨日までなら、ものすごい渋滞に巻き込まれてたと思うよ。元旦移動は正解だな」

潤と樹が何気なく会話を交わし、後ろの席でも真美や都が岳と楽しくおしゃべりをする中、車は高速道路を降りて郊外に入った。

「わあ、緑がいっぱい。景色が綺麗だね、がっくん」
「うん。もうすぐ着くよ。ほら、あそこ」
「え?どこ?」

真美は岳の指先を目で追う。
木々の間に、洋風のコテージが見えてきた。

「可愛い建物。森の中の小さなお城みたいだね。オーベルジュ・ドゥ・ボヌール……。へえ、オーベルジュなんだ。素敵」

看板を読み上げる真美に、岳がひと言告げる。

「ここ、おじいちゃんち」
「え、ええー?!潤さんとお姉さんのご実家って、オーベルジュだったの?」
「おべんじょ?まみ、トイレっていわないの?」
「いや、言うけど……。オーベルジュはね、美味しいお食事が食べられて、お部屋にも泊まれる、小さなホテルなんだよ」

潤から、両親は夫婦で家業を営んでいるとは聞いていたが、まさかオーベルジュとは……

真美が建物に釘付けになっていると、潤が車を停めた。

「着いたよ。荷物はあとで持って行くから、先に入ってな」
「うん!」

都がベルトを外すと、岳は真美の手を引いて車から降りた。

「まみ、はやくはやく!コロみにいこう」
「あ、待って!がっくん」

丸太を半分に切った階段をトントンと駆け上がり、岳はエントランスの扉をガチャリと開けた。

「たっだいまー!おじいちゃーん、おばあちゃーん!」
「おお、岳。よく来たな」

洋風の家具が並ぶエントランスホールに、ニコニコと笑顔を浮かべた優しそうな50代の夫婦が現れた。

「元気だった?岳。あら、まあ!綺麗なお嬢さんね」
「うん、まみ。おれのかのじょ」

はっ?!と夫婦は固まる。

「あ、いえ!その、初めまして。望月 真美と申します。元旦からお邪魔して申し訳ありません。五十嵐課長と都お姉さんには、いつも大変お世話になっておりまして……」
「まみ、コロみにいくぞ。こっち!」
「あ、待って!がっくん!」

手を繋いだ二人がバタバタと外に出て行き、両親はポカンとしたまま取り残された。

「ただいま」
「じゅ、潤!」
「ん?どうした?」

入れ違いに入ってきた潤に、両親は真顔で問い詰める。

「真美ちゃんって、岳と結婚するのか?」

潤は、は?と声を上ずらせた。

「そんな訳あるか。真美は俺の婚約者だ」
「そうだよな。あー、びっくりした。息子よりも先に孫に彼女を紹介されるとは思わなかった」

すると潤は少し渋い顔をする。

「それなんだけど……。俺と真美がいずれ結婚することは、岳の前では話題にしないで欲しい。あいつ、本気で真美が好きだから」
「ええー?!まだ4歳なのに?」
「ああ。4歳ながら本気だ。機会を見て、俺がちゃんと岳に話をするから」
「分かった。息子と孫が恋のライバルだなんて……。なんか切ないのう」

しみじみとした雰囲気の中、あの……と都がそっと顔を覗かせた。

「ただいま、お父さん、お母さん」
「おお、都。おかえ、り?!」

都の後ろにスッと現れた樹に、両親は直立不動になる。

樹は二人に深々と頭を下げた。

「ご挨拶に伺うのがこんなにも遅くなり、申し訳ありません。三原 樹と申します。私の至らなさにより、長い間都さんに大変な苦労をかけてしまい、ご両親にもご心配とご迷惑をおかけしました。心よりお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」
「は、いや、その」

突然色々あって、両親は頭がついていかないらしい。

潤は4人を隣のダイニングルームへと促した。

「俺と真美で岳を見てるから。ごゆっくり」

そう言って潤はパタンとドアを閉めた。