翌日。

お昼ご飯を食べ終わった頃に、都がやって来た。

元旦に一緒に帰省する話をし、岳がソファでお昼寝を始めると、3人はダイニングテーブルに集まった。

「潤、真美ちゃん、色々ありがとう。昨日あれから彼に連絡して、会って来ました」
「うん、良かったな。それで?」

潤と真美は固唾を呑んで都の言葉を待つ。

「まあ、話せば長いんだけどさ。ダイジェストでお伝えするわね。えーっと、まずは彼が、やっと私に会えた!と喜んで、私は、今頃見つけてんじゃないわよ!と怒った」

ええ?!と思いつつ、真美は黙って堪える。

「ちょっと、文章にするの面倒くさいから、寸劇で再現するわ」
「は?はあ……」

とりあえず頷くと、都は咳払いをしてから声色を変えた。

「彼『君がいなくなった時、俺がどんな思いだったか知ってる?』私『そんなの知らないわよ。お嬢様とご結婚あそばしてると思ってたんだから』彼『する訳がない。俺は自力で会社を立て直しながら、とにかく必死で君を探したんだ。絶対に君を諦めるつもりはなかった』私『すごいわねー。5年半も経てば忘れるでしょ?普通』彼『忘れるもんか。逆にどんどん想いは募っていった』……えー、長いので、中略」
「は、はあ……」
「で、核心よ。彼『あの子は俺の子だろ?隠しても分かる。俺の小さい頃にそっくりだ』私『だったらどうだっていうのよ?』彼『もちろん、一緒に暮らす。君と結婚して3人で。もう二度と離さない』私『今頃現れて、はいそうですか、なんて言える訳ないでしょ?私と岳の生活を乱さないでよ』彼『岳って名前なんだ。いい名前だな』私『し、しまった……。ついうっかり』」

いよいよ我慢の限界だとばかりに、潤が手で遮った。

「姉貴、もういい。日が暮れる。結論だけ言ってくれ」
「だからー、彼が岳に会いたいって言うのよ。最初は友達とか、知り合いって紹介してくれればいいからって」
「なるほど。で?そうするの?」
「うーん、迷ってる。遠い親戚のおじちゃんってことにするならいいかなって。ほら、今後も父親参観とか、運動会の親子競技とかがあるじゃない?そういうのに、やっぱり父親代わりがいてくれた方がいいかなとは思ってたから。潤に頼むにしても、潤だって真美ちゃんとの家庭があるから、いつまでも頼っちゃいけないしね」

それは別にいいけど……、と言いつつ潤は腕を組んで宙に目をやる。

「そうだなー。姉貴が前向きなら話を進めていいと思う。あとは、岳の様子をちゃんと見極めなきゃな」
「そうなの。それが何より大事。やっぱり何か気づくと思うのよね、あの子なら」

うんうんと真美も頷く。

「だからそこは慎重に進めたいんだけど、もう一つ懸念事項があって。彼、どうしてもうちの両親に挨拶したいって言うのよ」
「あー。なるほど」
「知らぬこととは言え、両親にとっては大事な娘と孫である私達を守ってやれなかった。それを詫びない訳にはいかないって。でもさ、ただ頭を下げに行くだけじゃ済まないじゃない?これからどうするのって話になるわよね?」
「まあ、そうだろうな」

潤が頷くと、都はため息をついた。

「どうすればいいんだろう?私はね、とにかく岳にとっていい方向になるようにしたいの。私の気持ちとか、彼の気持ちとかはどうでもいい。岳がこの先生きていく中で、いつかは父親のことを真剣に考える時が来る。もし私が、彼と岳を接触させないようにしていたって分かったら、その時岳は『どうして俺から父親を奪ったんだ?』って思うかもしれない。そう思うと怖くて……」

潤と真美は押し黙る。
想像するだけで胸が傷んだ。

「今になって彼が私を見つけたのは、そういう運命だったのかな、とも思う。今なら、岳を彼に会わせてもいいのかもって」
「うん、確かに。あのさ、姉貴。あくまで提案なんだけど……」

潤はためらいながら口を開いた。

「うん、何?」
「元旦に帰省して1泊する時、真美も行くだろ?そこにその相手も同行するのはどうだ?」
「え?岳も入れて、5人で帰るってこと?」
「ああ。岳は真美がいれば真美にべったりだ。その人のことは、あんまり意識せずに接することが出来るかもしれない。真美と同じように、単なる俺達の友達だろうな、みたいに」
「んー、それは言えるかも」

都はじっくりと考えてから顔を上げた。

「確かにいいチャンスかもしれない。真美ちゃんは、それでもいい?」
「はい、もちろんです。私もそばで、がっくんの様子を気にかけておきたいので」
「ありがとう!そうね、急展開だけど、この機会を逃したら次はないかも。彼に聞いてみてもいい?あと、お父さん達にも」
「ああ。向こうの部屋で電話していいから」
「ありがとう」

都はスマートフォンを手に立ち上がってリビングを出た。