「お前さん、あの山に入ったんか!?」

 ネット黎明期から脈々と語り継がれ、今もなおオタクの恐怖心を煽り続けているホラー板の怖い話。
 そのド定番の台詞を、まさか自分が言われることになるとは思わなかった。

「えっ」

 山には入った。
 でも別に御神体に触れたとか、注連縄をくぐったとか、謎の札が貼られた場所に入ったとか、そんな罰当たりなことをここでは一つもしてない。
 白くてクネクネしたものも見てないし、ブリッジした女に追いかけられてもない。
 鏡の前でやべー儀式もしなかったし、ぽぽぽぽとか変な声を出すアホほど背の高い女を見かけてもない……。

「あの山に入ったのかと聞いておる!」
「は、入りましたけどぉ……」
「おい、連れて行け!」

 怒り狂う爺さんが怒鳴ると、めちゃくちゃ厳つい男に羽交い締めにされた。
 もしかして寺生まれの爺さんの弟子か?
 今から大掛かりなお祓いとかされるのか?
 お化けは何も見てないのに?
 参ったなぁ、何が駄目だったんだ?