その夜は最高に気分が良かった。
 セクハラパワハラ三昧の上司から解放されたことが嬉しくて嬉しくて、金曜でもないのに日付が変わるまで酒を飲んでしまった。
 コンビニの袋いっぱいに詰め込んだ缶ビールを漁り、また一本空にする。
 居酒屋は追い出されてしまったから、代わりに夜の公園で朝までパーリナイするつもりだった。

「……んん?」

 不意に聞き覚えのある鈍い音がして、公園の奥にふらふら進む。
 街灯の光が届かない茂みの向こうに、女の人がこちらに背を向けて立っていた。

「どうかしましたぁ?」

 酔っ払ったままヘラヘラ声を掛けると、女の人がゆっくりとこちらを振り返る。
 よく見たら随分と薄着だ。私が不思議に思って眺めていると、彼女が乱れた服を掻き合わせた。

「え……いや……ごめんなさい、何も……」

 そして震えた声で答えながら、暗がりに下がっていく。
 ああ、怖がらせてしまったかもしれない。こんな平日の夜更けに缶ビール大量に持った女、普通に考えて近付きたくないだろう。
 だから要件だけ聞くことにした。

「手伝いましょうか?」

 女の人はしばらく黙り込んで。

「結構です」