「ね、凛さん。生成AIってあるじゃん」

 作業通話中、友人がおもむろに言った。
 SNS上で知り合った絵描き同士が集まったグループチャットには、気付けば私と彼女しか残っていなかった。
 時計を見ると、もう0時を過ぎている。
 私はそれなりに進んだ漫画の原稿を上書き保存して、大きく伸びをした。

「うん、あるね。最近話題の」
「あれさ、データセットに有料コンテンツが混ざってるとかよく言われてんじゃん?」
「うん」

 眠い目を擦りながら相槌を打つ。
 絵描きのコミュニティに属している以上、生成AIの名前を見ない日は無い。
 最初は「AIが考えたイラストや画像」と銘打って持て囃されたけど、特定のイラストと同じものが丸ごと出力されたり、学習データの著作権の問題が出てきたりと、その使用を巡って日々いろいろと議論が交わされているようだ。

「その辺の問題をクリアしたやつが出たらしくて」
「ええ?」

 私は驚いた。

「そんなの出たんだ?」
「ベータ版のリンク送るね」
「え、いや別に送らなくて……」

 友人は私の言葉を無視してサイトのURLを送ってきた。
 怪しいサイトにアクセスするのは……という気持ちが半分、クリーンな生成AIがどういうものか見てみたい気持ちが半分。
 結局、恐る恐るリンクをクリックした。
 意外なことに、サイト説明は日本語だった。
 でも生成AIの名前は「IANIR」……イ、イアニル? 何て読むんだ? 造語? まあいいや。

「えー、何だっけ。プロンプト入力するんだっけ?」
「そう」

 私は適当に、「空」「公園」「鳥」と入力し、のどかな公園の景色を出力できるか試してみた。
 すると。

「へー、わりと綺麗だね」

 出力された画像は、私が想像した公園と概ね一致していた。
 ザッと見ただけでも乱れが少ないし、少ない指示でここまで想像と近いものが出来上がるのは純粋に凄い。
 でもこれだけだと著作権周りの問題がクリアされてるのかは分からない。
 私は次に有名なアニメキャラクターの名前と、原作者の名前を入力した。
 するとAIは画像ではなく文字を表示した。

「え! エラー出た。ほんとにデータ使ってないのか……」

 感心しながら、今度は「女の子」「笑顔」と打ち込む。
 Enterキーを押した後、「二次元」とか「イラスト」も入れとけば良かったと思った。
 そんなことを考えたのも束の間、またAIが指示に従って画像を出力する。
 生成されたのは、にっこりと笑う女の子だった。

「ビックリした? 頑張って集めたの、データ」

 私は急いで通話を切った。