「政略結婚……?」

 エリスが驚いて声をあげると、両親は辛そうな顔でエリスを見た。二人は両手を握り締め合い、こんな時でも共に悲しみを分け合っているのが伝わってくる。

 人柄がよく、むしろ優しすぎるエリスの父親は、仕事先でだまされて危うく財産を無くしかけた。だが、そんなエリスの父親に言葉巧みに近寄る貴族がいた。その貴族は、自分の次男をエリスの婿として結婚させてくれれば、家の存続は免れると言ってきた。その貴族はエリスの家よりも階級が上で、確かにその家の息子と結婚すれば家が無くなることはないだろう。

「でも、エリスに愛のない結婚をさせるだなんて……父親として本当に失格だよ。それだけは避けたかったのに、どうすることもできないんだ」
「あなた……」

 うなだれる父親に、そっと寄り添う母親。辛そうな二人を見て、エリスは心が潰されそうになる。

 父親に近寄ってきた貴族の次男は、すでに恋人がいてエリスには全く興味がないようだ。その次男の恋人もすでに結婚をしており、結婚していても恋愛を自由にしていいという考えのようだ。

「少し、考えさせてください……」

 実際のところ、考える時間などない。だが、はいそうですかとすぐに言えるほどエリスは強くないのだ。そんなエリスを見て、両親は涙を浮かべながら静かにうなずいた。