人懐っこい性格と端整な見た目のおかげでディルはメイドたちから異常にモテる。モテるディルにエリスはもやもやとした気持ちを抱えていたが、メイドたちにどんなに言い寄られても誘惑されても、ディルは全く興味を示さず、この家のためにならないからと徹底的に排除していった。

(私も早く結婚してしまえばディルへの気持ちが無くなるかと思っていたけれど、うまくいかないものね)

 愛のある結婚を望むエリスを、地位や世間体のためだけに結婚すると当たり前のように思っている貴族のご令息たちは疎んじ、すぐに婚約破棄をしてしまう。今回の婚約破棄で実に五回目だった。

 エリスの両親は、いつか本当に愛し合える相手が見つかるまで慌てなくてもいいのだと言ってはくれる。だが、エリスはディルへの気持ちをあきらめるためにも早く結婚したかったのだ。

(そのために結婚したいだなんて思うからきっと失敗するんだわ。自業自得ね)

 また静かにため息をついてディルを見ると、目が合う。ドキリとして思わず目をそらすと、ディルはくくく、と声を殺して笑っている。そうして、そっとエリスの髪の毛に触れた。

「もしも俺が貴族のご令息でエリス様の婚約者だったら、すぐにでも結婚してエリス様だけを一途に思い続けるんですけどね」

 ディルはエリスの髪の毛をひとふさ取って指でいじりながら、艶のある声で優しく囁く。 

「な、ななな、なに言ってるの!ディルはそうやってすぐからかうんだから!」
「くっくっくっ、エリス様はちょろすぎますって。気を付けたほうがいいですよ、変な男にひっかかってだまされてしまわないか心配になる」

(もうずっと前から、目の前の男にだまされてる……!)

 顔を真っ赤にして抗議の視線を送ると、ディルは嬉しそうに笑った。