「あなたはどう思うの、ディル。あなただってもういい年齢でしょう。結婚しててもおかしくない歳なのにまだ結婚していないし、浮いた話も聞かないし」
「俺はこの家にずっと仕えていますからね、死ぬまでそのつもりですよ。別に結婚する気はありませんし、万が一結婚することになったとしても、エリス様の結婚を見届けるまではひとり身でいると決めていますから」

 ディルはわけあって幼いころにエリスの父親に拾われたのだが、それ以来、ずっとエルベラ―家に仕えており、エリス専属の執事となっていた。

「私の結婚を見届けるまでって……それまであなたが一人でいるだなんて、プレッシャーだわ」

 わなわなと両手を震わせて顔を青くするエリスを、ディルは優しく微笑んで見つめている。

(そんな顔で見ないで……ディルが早く誰かと結婚してくれれば、この気持ちをあきらめることができるのに)

 エリスは、ディルに恋をしていた。小さいころからずっと一緒にいて世話をしてくれるディル。執事とはいっても小さいころのエリスにとってはディルは世話好きな兄のような存在で、家族同然だった。

 だが、成長するにつれていつの間にかエリスはディルに対して淡い恋心を持つようになっていた。

(ディルが私に対して優しいのも大切に扱ってくれるのも、従者としてだからってことはわかっている。わかっているけど……)

 チラ、とディルを横目で見ながら、エリスは心の中でため息をついていた。