ディルがエリスと出会ったのはディルが十五歳、エリスが五歳の時だった。誘拐されて道端に捨てられていたディルを、仕事帰りのエリスの父親が運よく助けたのだ。
 ショック状態で記憶を無くしていたディルを、エリスの両親は家で働かせてくれた。家にいた小さな可愛いご令嬢は、ボロボロな姿を見たディルを嫌がるところがとても心配した。この家の人間はどうしてここまで皆優しいのだろうかと驚いたが、次第にこの家の人たちのために尽くそうと思い始める。

 小さなエリスはディルによく懐いて、いつも一緒に過ごしていた。はじめは兄妹のように接していたが、成長するにつれて執事としての心構えを持つようになり、エリスに対しても執事としてお嬢様に接するようにしていた。

 エリスも成長するにつれてディルを意識し始めたのだろう、少しずつ適切な距離を置くようになり、ディルにとってはそれが少しだけ寂しくも思えていた。

 エリスが貴族のご令嬢やご令息が通う学校へ行くようになると、エリスに近寄るご令息を片っ端から遠ざけた。貴族のご令息たちはエリスの可愛らしさと素直さにつけこもうとしたが、ディルは悪い虫がエリスにつくことを絶対に許さない。エリスの知らない所で、ディルはいつもエリスを守っていた。

(エリスは世間知らずだから優しくされると相手をいい人だとすぐに思ってしまう。だけど相手に下心がないわけないんだよ。男なんてみんなクソしかいないんだから、俺が目を光らせていないとだめだ)

 エリスは成人すると、結婚したいと言い出し始める。父親に頼んで婚約者をさがし、実際に話を進めるが、いつも結局は婚約破棄されてしまう。エリスの思い描く結婚は、この国のほとんどの男たちにとってはめんどくさくやっかいなものなのだ。

(俺が貴族のご令息だったら、すぐにでもエリスに結婚を申し込むのに)