──すごい疲れる……。

 息切れする思いで私はドライヤーを手に久世の髪を大雑把に乾かした。
 今更駅まで戻しても終電もないし、そもそも動けそうにもないし、今日はうちに泊めるしかない。これで毛布を掛けておけば、とりあえずは風邪をひくことはないだろう。

「はぁ……」

 立ち上がろうとしたところで、ふいに久世が伸ばした手に手首を取られた。

「あの、真咲さん……」
「どした? まだ気分悪い?」
「いえ、だいぶおちつきました……あたま、きもちかったです。ほんと、ごめんなさい」
「しんどそうだし、このまま寝ていいよ」

 目を閉じたまま、すこしだけ顔を顰めて久世は頷く。彼は私の腕を引くと、手のひらに頬を擦り寄せた。

「真咲さん、やさしくて、あまえたくなる」
「ほんと、私がやさしい上司でよかったね」
「……げんめつ、しました、よね」
「幻滅っていうか、まぁびっくりしたけど、超人かと思ってたやつが普通のバカ男だとわかってむしろ安心したわ。それより寝な。説教は明日」

 手を解こうとしたはずが、久世は目を見開いて私を抱え込んだ。

「結婚して!」
「け、……はぁ?」
「すきです、すきすぎる……おれ、真咲さんと、けっこん、したい!」

 振りほどこうにも久世はぐいぐいと腕を手繰り寄せ、離そうとしない。

「ちょ、久世、ふざけんのもいい加減に」
「がんばって、しあわせにしますから。おれのことも、しあわせにして、くらさ──」

 言葉の途中で久世の意識は途絶え、あとは穏やかな深い寝息が聞こえるばかりだった。