頬を赤らめ惚ける久世を促して、すぐさま谷原統括マネージャーにことの次第を報告し了承を得る。
 講師予定だった田仲先生には久世から連絡を入れてもらい、次に、谷原さんも伴って研修部門の部長と情報を共有。プログラムの再調整に当たって必要な資料や情報を全面的に提供してもらえるよう話を取り付けたうえ、改定費は吹っかけることにした。

 あれこれやってギリギリ一時間後には、見積書とともに剣持からの要望を踏まえたプログラムの草案を提出することができた。剣持は見積金額にやや抵抗があったようだが、さすが決裁権を持つ相手とあって電話口で了承を告げた。

 ここから私と久世は、発注に向けた手続きと並行して、ミーティングルームに籠り、ひたすら研修の内容を詰めて提示するスライドや資料を作成する作業に時間を費やした。
 夜になって相田さんや喜田川が夕飯を差し入れてくれたし、心配した田仲先生は、わざわざ出張先のホテルからオンラインの会議システムにログインしてくれ、アドバイスと共に内容も遅くまでチェックしてくれた。

「真咲さーん! 印刷、全部終わりました!」
「やったー! えらーい! ヨシヨシしてやる、こい久世ッ!」
「へぇん、真咲さん大好き! 結婚しよ!」
「それについての返答は差し控えさせていただきます」
「ドライ!」

 ぶち上がるテンションのまま準備が終わったのは午前一時も過ぎたころ。ふたりともすでに目の疲労感が限界で、タクシーを拾って乗り込んでからはほぼ無言まで落ち込み、自宅マンションの前で先に降りた私は、後部座席のぼんやりする久世をドア越しに覗き込んだ。

「久世、とりあえず少しでも寝て、いつものバッチバチにイケてる顔作っておいてね」
「どのくらい……?」
「東京ドームで単独ライブ」
「え、がん……頑張ります……」
「うん。ふたりで頑張ろ。おやすみ」
「おやすみなさ……あ、あの! 真咲さん!」
「どした?」
「お、起きられるか心配です」
「じゃあ、とりあえず六時……いや、六時半に電話する。それでいい? というか、私から連絡なかったら久世が私のこと起こして。頼むぞ。我々は運命共同体だ」
「わかりました」

ようやく笑った久世に私も笑みを返し、走り出したタクシーを見送る。昨日まで出張だったから荷物が入ったバッグが重い。むくんだ足もまた鈍りのように重かった。