ーーーー『付き合ってしばらくたった。母が再婚し血のつながらない弟ができてから、少し彼が冷たい気がする。

デート中に熱が出たと1つ下の弟から連絡がはいり、家に戻ったのが相当気に食わなかったらしい。しょうがないじゃない、家族が風邪をひいちゃったんだから。そう説明しても彼の機嫌はなおらない』




「デート中に血のつながらない弟から呼び出しか。それは仕方ないですね」


「いやいやいや、ダメでしょ、デート中ですよ?」


春宮さんが顔の前で手を左右に降った。デート中だろうがなんだろうが風邪をひいた弟を放っておいて恋愛にうつつをぬかすなどもってのほかだ。激しくこの主人公に同情する。別れてしまえ。


「ちゃんと読みました?この弟わるーい男ですよ、距離感近いしやたらと主人公について回るし、絶対好きですよ、主人公のこと。

それに気づいたから彼氏は嫉妬したんです」


「そ、そんな、弟ですよ」


「『血のつながらない弟』ですからねえ」


「仮に弟が主人公のことを好きだとしても、家族が倒れたら助けにいくでしょう」


「絶対弟たいしたことないですもん、デートって分かっててわざと連絡してますからね」


「どういう理屈でそう思ったんですか?どうするんですか弟はどこかに監禁されていて今にも殺されそうになっていたら、助けるのは姉しかいない」


「すぐそういう物騒なストーリーにもっていく!青春ストーリーはもっとこう、単純で儚くて綺麗なんですよ、知らんけど!」


「知らないのに知ったように言わないでください」


「なにをー!」


バンっ!とテーブルが叩かれて少し揺れた。
それは春宮さんでも俺でもなく、先程まで大人しく図書室のカウンターに座っていた図書委員だった。


「静かに。ここ図書室ですよ」


鬼のような顔でそう言われ、2人して「すみません」と謝った。そしてこんなことで言い争いをしていたことが唐突に恥ずかしくなり本を静かに閉じる。


「…今日はこの辺にしておきましょうか」


「そうですね、キャパオーバーです」


「俺もです」


本を鞄に入れて立ち上がると春宮さんも控えめに笑って自分の後をついてくる。



「青嶋さんの青春恋愛小説楽しみにしてますよ」


「こちらこそ、春宮さんの青春恋愛ソング楽しみにしてますよ」



『では、また明日』自然にそう言った。そうか、当然のようにまた明日ここで語らうのか、少し楽しみだと思わず口角が上がる。


誰もいなくなった図書室でカウンターに座る図書委員は静かに呟いた。




「じゅうぶん、青春ですやん」