ーーーー『初めて会ったのは図書室だった。彼が取ろうとした本に同じタイミングで自分も手を伸ばした。

触れた手は熱を帯びていて照れくさくなって咄嗟に手を離した』




「脊髄反射ですね。それほど彼の手は熱かったと」


「違うと思います」


もれた考察は即否定されてしまった。なんだ咄嗟に離したくなるような熱を帯びた手って。
本に手を伸ばす。隣から伸びた手が自分の手に重なった。相手が反射的に離す。


「さっきの俺たちに状況は似ていますね」

「ああ、確かに!でも私が手を離したのはただ単に恋愛小説を読むということを誰かに知られるのが照れくさかったという理由があります」

「なるほど」


「『うええこんな女でも恋愛小説読むのかよ〜』ってバカにされたらしめ殺してやろうかなくらいには思ってましたけど」


「ロックですね」


パラリとページを捲る。


ーーーー『彼には秘密があった。表の顔はみんなに好かれているキラキラ王子様なのに
裏は腹黒のツンデレ男だったのだ。わたしだけにしかみせないその顔、わたしにだけしかみせない独占欲、私は彼に少しずつ惹かれていく』




「分かりました。こうやって女をマインドコントロールして支配下におくんですね、女は最後に殺されますよね」


「違うと思います」


春宮さんは少し呆れていた。解せない。それにこの男の何がいいんだ。超絶わがまま顔だけ男ではないか。


「私が思うに、この男の子は主人公にしか素の顔をみせない、要は主人公にだけ心を開いています」


「ほう」


「つまりそれが2人だけの密な世界観に変わるわけですよ、

デスメタルだってステージに立てばメンバーと濃密な空間になるわけでなんとなく考えていることが分かるんです、音で、声で、奏でる音色で!

この2人は最終的にデスメタルを組んで世界でバカ売れします」


「違うと思います」



真剣に話を聞いていたのがアホらしくなりしばらく無言でページをめくっていく。


「あ、まって、まだそのページ最後まで読んでない」


「早く読んでください」


「青嶋さんが速読すぎるんですよ」


「春宮さんが遅すぎます」


「なんだよもう」と少しこちらに顔を寄せた春宮さん拗ねたように唇を尖らせながらまだ文字を追っていく。少し、心臓が変な感じがした。言葉に表せないような変な、感じ。


「あ、告白しましたね」


「はい、そうですね」


「青嶋さん、ここ噛み締めて読みました?主人公が告白したんですよ、記念すべき場面じゃないですか」


「まあストーリー的にはここでいうのが妥当かと。強いて言うなら、

ライバルの女のしようもない嫌がらせにもう少しトリックがあれば面白みがあったかもしれなません」


「恋愛小説に何を求めてるんですか、いいんですよこれで、まあでももうちょっと告白の仕方にパンチは欲しかったですよね。

屋上からパラシュート付きで飛び降りてロックに告白して欲しかった」


「そこまで命がけで告白する必要あります?」