ーーーーーー


変な勘違いをされる前にいちから全てを説明してやった。

彼女曰くなんの躊躇いもなしに、いや、恥じらいもなしにこの本を手に取った俺をみて相当こういう本を読んでいるのだろうと考えたらしい。

こいつミステリーの中の登場人物だとしたら、変に犯人刺激して殺されるやつだな。

図書室の大きなデーブルに並んで座わる。放課後ということもあり人は少なく少々私語をしていてもカウンターの図書委員に聞こえなければ咎められることもない。

目の前には1冊の恋愛小説が置かれている。


「なるほどお、ミステリー作家なんですね、高校生なのにすごい」


「若いだけでそういうレッテル貼られるのはあまり好きではないんですけどね」


「す、すみません」


「いえあなたは謝らないでください。現役の高校生だから青春恋愛小説書けるとアホらしい方程式をつくりあげたクソみたいな大人どもに怒っているだけですから。あ、俺2年の青嶋です」


「流れるような自己紹介…」


差し出した手を控えめな力で握った女子が「春宮です、2年です」とぎこちなく言葉を放つ。


「春宮さん学年一緒なんですね、顔合わせたことないですね」


「うちの高校クラス多いですもん。私はFクラスなんですけど、青嶋さんは?」


「Aクラスです」


「わあ、特進クラスじゃないですか頭いいんですね」


「いえ、そんなことないです」


「確かに頭良くないとミステリー書けないですよね!本当すごいなあ」

瞳を輝かせて両手を組んだ春宮さん。表情がコロコロと変わっていく。この人絶対人とか殺せなさそう。

いや、こういう人にかぎって明るい仮面を被ったサイコパスという可能性もある。真のサイコパスは人の隙につけ入るのがうまい。
この人もそういう…


「私、デスメタルやってるんですけど」


違った。ただの真面目な皮被ったデスメタル系女子だった。いやなんだよデスメタル系女子って。


「デスメタル、ですか…」

「はい」


改めて春宮さんの姿を視界に入れる。意外だ。
デスメタルって自分の想像しているあれだろうか、デスボイスで歌いながら頭を振り乱すあれ。


「方向性の違いで解散の危機でして」


「方向性の違い?」


「私以外のメンバーが普通の青春恋愛ソングをやりたいと言いだしまして」


デスメタルから青春恋愛ソングってなんともぶっ飛びすきではないのだろうか。でもまあ似たような境遇なのは少し理解した。なんなら彼女の方が難解なのでは。


「次までに曲作ってこいって言われていて、参考までに青春恋愛小説でも読んでみるか、という流れです」


だから『恋愛小説なんて』か。自分も春宮さんと同じ気持ちになったことは確かなので偉そうなことは言えない。
ただ仲間を見つけたみたいで素直に嬉しかった。青春を学ぼうとしている人が自分以外にもいるのだと。


「一緒に読みませんか、これ」


「え?」


「1人で解読するのには時間かかりそうなので」


「私たちが目の前にしているのはそんなやばい本なのですか」


「ええ、未知です」



※ただのキラキラ青春恋愛小説です。