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自分以外の作品をみて感化されることはよくある。
緻密に練られた伏線と読者があっと驚くどんでん返し、引き込まれる世界観。
それらは糧となり執筆の意欲となる。

そうやっていくつもの物語が生まれてきた。


「…」


解せない思いで満ちてはいるけれど、染谷さんに言われた『未知のものに触れずに生きていけばそれだけ狭まった人生となる』と諭されたのは少し納得をしていた。
それも自分より10歳ほど上の大人から言われれば妙に説得力がある。

まあ、だからと言って青春恋愛小説なんて自分には書けないことは確かだ。


「陳腐だな」

高校の図書室に並べられた恋愛を主軸としているもの眺めてそう呟いた。
タイトルだけでそんなことを言ってしまうのはさすがに失礼だと気づき、並べられた本に小さな声で『ごめん』と謝った。
貶すなら読んでからである。

ひとまず手を伸ばしたのは「他のやつなんか見るなよ、俺だけに恋しとけ」というタイトルのなんだかよく分からない恋愛小説であった。

理由はただ単に『恋』という字が入っていたのと、こっぱずかしいタイトルのため自分たちの年代に向けたものなのだろうと踏んだからだ。

本に手を伸ばした瞬間、隣から伸びた手が自分と重なる。相手の方が咄嗟に手を離した。


「あ、すみません」

「いえこちらこそ」

隣に目を向ければ、髪を2つにくくり、第一ボタンまでしっかりと閉めているような真面目そうな女子が自分を見上げている。

申し訳なさそうな顔をしているのでいたたまれなくなった。本を取り出して彼女に差し出す。


「どうぞ」


「え、あ、いえいえ、別に読まなくても大丈夫なので、そんな、恋愛小説なんて」


じゃあなぜこの本に手を伸ばしたんだ。
それにその物言いだと俺がこの本を読みたい人になってしまうではないか。
まあいいや、俺の事情なんてこの人からしたらどうでもいいことだ。

『恋愛小説なんて』と彼女が貶したそれの表紙を視界に入れる。少女漫画のような雰囲気だった。男女が近い距離で見つめ合っているような表紙である。

学校の図書室に置かれるものにしては教育的にいかかなものか、そんなことを思ったがこれも『青春』を謳歌するための要素として置かれているものなのかと理解する。

「じゃあ遠慮なく」

その本を軽く持ち上げて会釈をしたあと俺は何か言いたげな表情をしている女子に背中を向ける。
やっぱり読みたい、とそういうことなのだろうか。じゃあそういえばいいのに。

『恋愛小説なんて』とわざわざ口に出したということは、彼女もそれに固執しており表にその感情をだすことを恥じらっているということなのかもしれない。


「あ、あの!」


肩をあげて振り向く。図書室という静かな空間に響き渡ったその声に自らも驚いたのか片手で口元を抑えた女子。くぐもったような「すみません」という声を発したあと、俺に駆け寄る。


「あなたは、青春恋愛マスターとか、ですか?」


「はい?」


なんだって?