困った顔をしているおばあちゃんの背中をさすり、私は無理やり話題を変えた。そして当たり障りのない会話で、朝食を終える。

 そして食器を片づけながら、開店準備について教えてもらった。

「あ。じゃあ、今後は私が店内やお店の前の掃除をするよ。おばあちゃん、毎日じゃ大変でしょう」
「ありがとう、助かるわ」
「これからは私もいっぱい手伝うから頼りにしてよ」

 私は胸をドンッと叩いて笑い、お店のほうへまわった。ほうきを取り出して、お店まわりの掃除を始める。

「あ、桜」

 そのとき不意に桜の花びらが手の上に落ちてきた。
 花びらは穏やかな春の風に乗って、ふわりと舞っている。これなら入学式の日まで桜が残ってくれているだろう。

 そのまま視線を動かすと、柚木文具へ向かう道が真っ直ぐとのびていた。

「……はいそーですかって簡単に頷けるほど、甘いものじゃないのよ」

 素直な気持ちがぽつりと言葉の形を取って漏れ出る。
 自分たちがいない時、おばあちゃんを気にかけてくれたのは助かるが、それでも簡単に埋められない溝がある。