「あらあら、そんなことがあったのね」
「ちょっと笑い事じゃないってば。本当にびっくりしたんだから……」

 神社から帰ってくるなり、おばあちゃんに愚痴ると彼女がクスクスと笑う。
 私は朝食をテーブルに並べながら、朗らかに笑っているおばあちゃんをじろりと睨んだ。

 すると、「あらまあ、怖い顔」とまた笑われる。


「なんでそんなふうに呑気に笑えるのよ。孫がいじめられっ子と再会しちゃったんだよ。おばあちゃんは心配じゃないの?」
「そうねぇ。今の和真くんはとてもいい子だから、特に心配はしていないわ」
「何それ……」

 柚木くんの肩をもつおばあちゃんに、私は唇を尖らせた。すると、彼女が私の手を握る。


「和真くんね。結菜たちがいないとき、お店にちょくちょく顔を見せに来てくれて、色々と気遣ってくれたのよ。この年齢だと重いものとか持てないでしょう。とても助かったの」
「……」

 それは確かに助かる……
 お礼を言うべきかもしれない。だけど素直にありがとうとは言えそうにない。


 おばあちゃんは……
 ずっとこの街で、おじいちゃんのカフェを守っている。おじいちゃんが亡くなった現在も。
 今までは心配でも、遠いところにいたから中々気遣ってあげられなかった。それが罪悪感としてあるだけに、手伝ってくれたと聞いて、心が少し動く。でもすぐにかぶりを振った。


「許せとは言わないけど、少しだけ歩み寄ってあげたらどう? 人はね、体が成長するように心も成長するの。いつまでも小学生のままじゃないわ。あなたも和真くんもね」

 だからチャンスをあげろって?
 口の中に苦いものが広がって、お茶をひとくち飲んだ。
 すると、炒り米の香ばしさと玄米茶特有のさっぱりとした味わいが口内に広がる。湯呑みからほわんと上がる湯気を見ていると、毛羽だっていた心が少しだけ落ち着いた。

 おばあちゃんからしたら、家族が遠くにいて中々会えないときに、孫の話ができる人は貴重だったのかもしれない。
 それに力仕事も手伝ってくれるし……