男が掴んだ腕は、ノキアのものだった。しかし、男は気づいていない。ノキアが、怪しい男だと、自分の剣の柄に手をかけたその時……。
 上空に何かが飛び出し、一瞬視界が暗くなった。人々は、何事かとその飛び出したものに注目し、目で追いかけた。それは、一瞬のうちに正確に、ノキアと男の間に着地した。

「ノキア殿になにをするつもりだ?」

 ノキアの用心棒であるデュランは、ためらいなく男に向かって剣を抜いた。
 剣を見た周囲の人は驚き、悲鳴をあげるものや歓声をあげるものもいた。

「なにを言ってるだすか! この方はセイラ様だす!! オイラは今日、セイラ様と祭りに来てはぐれていただす! それを見つけたから、こうしているだす!! あんたこそ、セイラ様になにをするつもりだすか!?」

 男の言い分を聞いて、デュランはため息をついた。

「……失礼だが、人違いではないか?」
「人違いなわけないだす! これはセイラ様だす! なんなら、勝負してもいいだす! 我が名は、スタン・マッカリスター!」

 スタンと名乗った男は、剣を抜いた。勝負の前に名を名乗るのは、剣士としての礼儀である。デュランは仕方なさそうに首を横に振った。

「……よかろう。我が名はデュラン。デュラン・マクレガー」

 デュランもまた、一度下げた剣を再び構えなおす。
 いつの間にか周囲の人はいなくなり、空間ができている。少し離れたところで、町の人々が歓声をあげている。