くるみ(私、橘くるみの好きなもの。友だちとのおしゃべり。チョコレートにケーキなどのお菓子。それから恋愛ものの漫画。読んでいると胸がキュンとするから。それさえあれば、私は幸せ。そう思っていたのに……)


○学校・2年2組教室(ホームルーム)

男の中年担任「全員、くじは引いたか?自分の場所に机を移動させろー。」

机を移動させ、席替えをする生徒たち。

窓側の一番後ろの席に自分の机を運ぶくるみ。

女子生徒1「よろしくね、くるみ。」

くるみの前に机を置く。

くるみ「よろしく!」

微笑んで手を振るくるみ。

くるみの隣に背の高い男子生徒が机を運んでくる。

蓮「橘さんだっけ?よろしく。」

くるみに、後光が差し込むぐらい爽やかな笑顔で高柳蓮が笑いかける。

くるみ「は、はい!よろしくお願いします。」

蓮「なんで敬語?俺らタメなのに。」

再び眩し過ぎるくらいの蓮の笑顔がくるみの心を撃ち抜く。

くるみ(王子様!!私の大好きな恋愛漫画、君にゾッコンラブの山下太郎くんの笑顔にそっくり!!こんな人が2次元にいたなんて!!)

くるみ(君にゾッコンラブ。累計売り上げ部数は100万部を超える大人気恋愛漫画。主人公の花美を溺愛する太郎くんが、めちゃくちゃかっこいいのだ。)


蓮「橘さん?座らないの?」

蓮に顔を覗き込まれて、はっとするくるみ。

くるみ「は、はい!そうですよね!」

蓮「だから敬語じゃなくて言いって。」

ふっと笑う蓮。

くるみ(いかん……キュン死にしそう……。)

くるみ(高柳蓮くん。高校2年生。サッカー部のエースストライカー。高校入学時から国宝級のイケメンとして学校中の女子から騒がれる。現在ファンクラブもあり。もちろん、私も彼の存在は知っていた。
短く切り揃えられた黒髪と178センチの高身長。少し日に焼けた肌に眩しいくらい輝く白い歯。世の中にはかっこいい人がいるものだと思ったものだ。)

くるみ(でも……自分には関係のない人だと思っていた。それが4月に2年生に進級して、5月の連休明けに隣の席になれるなんて!!)


○放課後・女子高生に人気のカフェ

友人1(赤井 那月(あかい なつき))「くるみ、いいなぁー。高柳くんと隣の席なんて。」

ストローでタピオカミルクティーをかき混ぜる那月。

友人2(川嶋 遥(かわしま はるか))「ほんと、ほんと。今年の運を全部使い果たしたんじゃない?」

ドーナツを頬張る遥。

くるみ「……かっこいいよね、高柳くん。」

那月「なに?あんた、好きにでもなっちゃった?」

遥「無理無理!あんなイケメン、好きになっても相手にされないよ。」

くるみ「す、好きになんてなるわけないじゃん!」

小さくため息を吐くくるみ。カフェの窓ガラスに肩までのストレートヘア、平均身長のどこにでもいる女子高生、自分が映っている。

くるみ(……私なんて相手にされないって分かってるよ。見た目も普通。スタイルも普通。学力や運動神経は平均よりもちょっと下。特技もない。何ももっていない、コンプレックスまみれの女子高生なんだもん。)


○学校・2年2組教室(数学の授業)

チャイムが鳴ってもガヤガヤとしている教室。

数学教師(九条 伊織)「おい、チャイム鳴ってるぞ。さっさと席につけー。」

周りと同じように自分の席に着くくるみ。

くるみ(あぁ、数学か。小学生の算数時代から苦手だし、嫌いなんだよねぇ。)

九条「昨日の課題の答え合わせするぞ。教科書とノート出せ。」

机から教科書を出そうとして、忘れていることに気付くくるみ。

くるみ(どうしよう……。)

蓮「橘さん、良かったら一緒に見よう。」

机の真ん中に教科書を広げてくれる蓮。

くるみ「ご、ごめんね。迷惑かけちゃって。」

蓮「全然。困った時はお互い様でしょ。」

爽やかな笑顔でくるみに笑いかける蓮。

くるみ(素敵な笑顔……太郎くんみたい……胸が苦しい……。高柳くん、今日だけじゃなくて、朝も帰りもいつも笑顔で挨拶してくれるんだよね。それに、よく話しかけてもくれて、その度に私の胸はドキドキする。)

教室で授業が進んでいく。九条が黒板に問題を書く。

九条「はい、じゃあ今から10分でこの問題解いて。」

問題を見つめたまま固まるくるみ。

くるみ(うっ……どうしよう。全然分かんない。)

隣でスラスラと問題を解いていた蓮は微動だにしないくるみに気付く。

蓮「この公式を使うといいんだよ。」

くるみに肩を寄せ、自分のノートに書いた公式をくるみにみせてくれる蓮。

くるみ「あの……」

蓮「ごめん、迷惑だった?」

くるみ「違うの。ありがとう。助かっちゃった。」

蓮「どういたしまして。」

くるみ(……優しい、高柳くん。こんな私にも親切なんだもん。)

そんな二人を九条の視線が刺す。

九条「おい、そこ!うるさいぞ。私語してる暇が合ったら、手を動かせ。」

くるみと蓮は顔を見合わせて、同じタイミングで苦笑する。


九条「そう言うわけで、この問題の公式は先週習ったやつを用いる。分かったかー?」

チャイムの鳴る音。

九条「そしたら最後に昨日やった小テストを返すぞー。名前を呼ばれたら取りに来い。赤井、井上、岩下……橘。」

がたりと席を立って、九条の立つ教壇に行き、九条からテストを受け取るくるみ。

くるみ(32点!?)

九条「橘、お前、大丈夫か?」

くるみ「だ、大丈夫……です!」

九条「その点数で大丈夫なわけないだろ。放課後、補習するから教室で待ってろ。」

くるみ「えぇー!!今日はダメです!!」

九条「何でだ?」

くるみ「今日は君にゾッコンラブの最新刊の配信日だから、帰って読まないと行けないんです!」

九条「何だそれ!?そんなの補習が終わってから読め!!」

くるみ(鬼教師め……)


くるみ(九条伊織。私の学校でナンバーワンのイケメン数学教師。年は27歳。高柳くんよりも少し背が高いから180センチぐらいある身長に、クール系の切れ長の瞳に、少し猫っ毛の柔らかそうな髪。そんな教師だから、学校に九条先生のことが好きって子もけっこういる。でも、教師のくせに口は悪いし、いい加減なんだよねえ。)


○学校・屋上(昼休み)

那月「いただきまーす!」

遥「いただきまーす!」

美味しそうにお弁当を食べる二人とは正反対で、箸のすすまないくるみ。

くるみ(あぁ……君にゾッコンラブのために今日一日、頑張れていたのに。補習だなんて。)

那月「くるみ、どうしたの?元気ないじゃん。」

遥「もしかして恋煩い?」

那月「えっ!?あんた、本当に高柳くんのこと好きになっちゃったの?」

くるみ「違うよ、違う!」

くるみ(友だちに言えるわけがない。まさか毎日、高柳くんに挨拶されることにドキドキしてるなんて。こんな平凡な私が好きだなんて言ったら、諦めろって言われるもん。)

那月「くるみってさ、まだ誰とも付き合ったりしたこともないんだよね。」

遥「そうなの?」

くるみ「まぁ……」

くるみ(那月は同じ中学だから、私が恋愛経験ゼロだって知っているのだ。)

遥「じゃあさ、すごく好きになった人とかは?挨拶されるだけで、こう胸がキュンってなる感じ。」

くるみ「ないよー。そんな素敵な人に会ってみたいなぁー。」

くるみ(それがまさに今、高柳くんにだけど、そんなの言えるわけない。)


○学校・2年2組教室(放課後)

男子生徒が二人、教室から出て行き、教室で一人になるくるみ。

くるみ(帰りたい。)

3階にある教室。自分の席から窓を覗くと、蓮がグラウンドでサッカーをしている姿がくるみの目に飛び込んでくる。

くるみ(かっこいいなぁ、高柳くん。)

くるみの背後に人影が現れるが、全く気付かないくるみ。

九条「何を見てるのかと思ったら、高柳か。」

びくっと肩を震わせて振り返るくるみ。

くるみ「先生、いつからそこに!?」

九条「3分前くらい?」

くるみ「いるなら声かけてください!人のこと盗み見するなんて最低です!」

九条「人のこと言えるかよ。高柳のこと盗み見してたくせに。」

何も言い返せなくなるくるみ。

九条「若いって言うのはいいね、全く。別に隠さなくていいよ。高柳が人気があるのは知ってるし。」

くるみの机にプリントを2枚置いて、くるみの前の席の椅子をくるみの方に向けて座る九条。

くるみ「……先生は、高柳なんてお前には不釣り合いだとか言わないんですか?」

九条「なんで?誰を好きになろうと本人の自由でしょ。」

くるみ(誰を好きになろうと本人の自由……)

くるみ「……先生!」

くるみ(高柳くんのことが好きっていうこの苦しい胸の内を誰かに聞いてほしい。なんなら、これからどうしたらいいかのアドバイスも欲しい。)

がしっと九条の手を掴んだくるみ。

九条「な、なんだ!?」

くるみ(九条先生はイケメンだし年上だし、恋愛経験だって豊富に違いない!)

くるみ「私の恋愛相談にのってください!」

九条「恋愛相談!?」

くるみ「はい!私には先生しかいません!」

九条「他所でしろ。俺は女子高生の恋愛事の相手をするほど、暇じゃないから。」

くるみの手を振り解く九条。

くるみ「ひどい!教師は生徒の話を親身になって聞くものですよ!」

九条「どうやったら、数学が50点以上とれるかって相談なら聞いてやる。」

くるみ「むぅっ……」

むくれるくるみをスルーして、くるみのプリントにコンコンと指を指す九条。

九条「はい、さっさと問題解いてくださーい。」

くるみ「先生のケチ。」

渋々、シャープペンシルを握るくるみ。


頭を突き合わせて、一緒にプリントをするくるみと九条。

九条「そこ、違う。」

くるみ「うっ……」

九条「公式それじゃないから。君さー、よくうちの学校に受かったよね。うち、そんなに偏差値低くないでしょ。」

くるみ(教師のくせに、生徒の心をえぐるようなこと言いやがって……)

くるみ「中学受験は他の教科で点数をとったんです。ここの高校、家から歩いて15分で近いし、お母さんが絶対にここにして欲しいって。」

九条「へぇ……まぁ、親としては家から近い方が安心だもんね。」

くるみ「それもあるけど、うち、母子家庭だから。私もお母さんに負担をかけたくなかったんです。」

九条「そう。」

簡潔な返事の割には、九条の顔には柔らかな笑みが浮かんでいる。

くるみ(この人、お母さん思いで偉いねとか言わないんだ……。そっちの方が嬉しいけど。)


プリントを最後までし終えて、九条は大きく伸びをする。

九条「よし、これで明日の小テストは大丈夫だろ。」

くるみ「はい。で、先生、もう一度聞きますけど、絶対に私の恋愛相談にはのってくれませんか?」

嫌そうな顔でくるみのことを見る九条。

九条「絶対に無理。」

くるみ「どうして!?」

九条「面倒くさいのが目に見えてるから。だいたい、そう言うのは友だち同士でするから楽しいんだろ。」

くるみ「友だちに言えないから先生に言ってるんです!」

九条「じゃあ、別の教師にあたれ。」

くるみ「嫌です。」

九条「だいたい、なんで俺なんだよ?」

くるみ「えっ?だってさっき気付いてくれたから。私の高柳くんへの気持ち。他の先生だと、まず自分から、私、高柳くんに恋してますって言わないといけないんですよ?そんなまどろっこしいことしたくありません。」

九条「そんな理由かよ!!くそーっ!気付いても黙っとくんだった。」

くるみ「ひどい!!教師のくせにそんなこと言うんですか!?」

九条「言う言う。とりあえず明日の小テスト、ちゃんと点とれよ。このプリントのまんま出るから。」

ひらひらと手を振りながら、教室を出ていく九条。

くるみ「むうっ……先生のバカ!!」

出ていく九条に舌を突き出すくるみ。


○マンション・くるみの家(夕暮れ時)

くるみ「ただいまー。」

しんと静まり返った家の中。

リビングに入り、電気を点け、ソファーに学生鞄を下ろすくるみ。

くるみ(お母さん、今日は夜勤だっけ。)

リビングの入口の側の棚に陽に焼けた男性の写真が飾られている。

くるみ「ただいま。お父さん。」


○回想

医師「残念ながら……」

くるみの母「そんなっ……」 

5歳のくるみ。母の腰のあたりにぎゅっと抱きついている。

くるみの母「くるみ……」

泣きながらくるみを抱きしめる。

くるみの母「お父さんね、もう帰って来ないの。病院の先生も頑張ってくれたけど……。」

母の腕の中で、母と同じように泣くくるみ。

○回想終了


キッチンで夕飯の支度をするくるみ

くるみ(お父さんは車に轢かれそうなお婆ちゃんを助ける代わりに亡くなった。警察官だったお父さんはプライベートでも正義感が強かった。)

食卓にカレーとサラダを並べて手を合わせてから、食べ始めるくるみ。

くるみ(お母さんも私もすごく辛かったけど、今は前を向いている。お母さんはお父さんが亡くなってから休んでいた看護師の仕事を、私が中学に入る頃にまた始めた。)

スマホを開けて、くるみはカレーを食べながら、SNSをチェックする。

くるみ(総合病院勤務のお母さんは高校に上がる頃から、夜勤も始めた。人手が足りないのもあるけど、私の大学進学のことを考えてくれているのだ。)

くるみは一通りSNSを見終えると、食卓から立ってキッチンに向かい、食器とお弁当箱を洗い始める。

くるみ(最初は少し寂しかったけど、今は平気。私も家族だから、自分のできることをする。毎日のお弁当と洗濯、食べた物の後片付けが私の仕事。)

冷蔵庫を物色するくるみ。明日のお弁当の具になりそうな残り物などをチェックする。

くるみ(もっとするって言ったのに、お母さんが十分過ぎるぐらいって許してくれなかった。家事をしている暇があったら、青春してって。せっかくの女子高生でしょと。)


○くるみの部屋(夜)

パジャマ姿でベッドにうつ伏せになるくるみ。片手にはスマホ。

くるみ「うはー!!今回の君にゾッコンラブも最高!!」

○君にゾッコンラブ

太郎「花美、誰だよ、あの男!?」

花美「あれは、ただのクラスメイト。」

太郎「ただのクラスメイトがなんでお前の頭を撫でたりするんだよ!!」

花美「それは、向こうが勝手にしてきたのよ!」

太郎「お前に触れていいのは俺だけだって言っただろ!」

花美の腕を引き抱き寄せる。


○くるみの家・くるみの部屋(夜)

くるみ「あぁ、こんなこと言われてみたい。高栁くんに、くるみに触れていいのは俺だけだってとか……」

ベッドで足と腕をじたばたさせるくるみ。

くるみ「せっかく隣の席なんだから、もう少しお近付きになりたいなぁ。」

イルカの抱き枕を抱えて、ベッドの傍の窓をぼんやりと眺めるくるみ。そこからは星空が見える。

くるみ「連絡先とか交換できたらいいのに。」

くるみ(でも、どのタイミングで言うの?うーっ、やっぱり誰かに相談したい。)

くるみは溜息をついて、スマホを開ける。母親に[おやすみなさい]とメッセージを送って部屋の電気を消す。


○学校・2年2組教室(4時間目)

九条「全員、席に着いたかー?最初に小テストするぞー。」

男子生徒1「えー!?先生またかよ!」

九条「4月の時に言っただろう。月に何回かは小テストをするって。」

男子生徒2「そろそろ小テストも飽きてきたよ。」

九条「俺は飽きてない。ほら、教科書出してるやつ、早く仕舞え。」

男子生徒1「ちぇっ。九条ちゃん、こう言うところは厳しいんだよなあ。」

くるみの元にも前の席に座る女子生徒から小テストが届く。

くるみ(昨日、先生としたプリントに載っていた内容だ。)

くるみは九条の方を見る。九条と目が合うことはない。

くるみ(昨日の恋愛相談の件はなかったことにする気なんだ。なんか悔しい……こっちはこんなにも先生を必要としているのに……そうだ!)

閃いたくるみ。テストに自分の名前を書く。


○学校・職員室(昼休み)

コンビニのおにぎりを片手に、2年2組の小テストを採点する九条。

九条「おっ、さすが高柳。満点か。」

テストを一枚めくって動きが止まる九条。テストにはくるみの名前。

九条「あのやろう……やりやがったな……」


○学校・2年2組の教室(ホームルーム)

男の中年担任「明日は朝から全校集会があるからな。全員、体育館に行くこと。連絡事項はこれぐらいかな。日直、挨拶、よろしく。」

がたがたと自分の席から立つ生徒たち。

日直の声「起立、礼、さようなら。」

さようならと教室のあちこちで声が出る。

蓮「橘さん」

くるみ「えっ?」

蓮「今日もお疲れ様。また明日。」

くるみに手を振ってくれる蓮。

くるみ「ま、また明日。」

くるみ(眩しすぎる笑顔、いただきました!)

男の中年担任「おいっ、橘!」

はっと現実に引き戻されるくるみ。

男の中年担任「九条先生がホームルームが終わったら数学準備室に来いって言ってたぞ。」

くるみ「……分かりました。」

くるみの前の席の女子生徒「なになに?くるみ、なんかしでかしたの?」

くるみ「さあ……。」

くるみの前の席の女子生徒「でも、九条先生からの呼び出しだったら、全然オーケーだよね!むしろ喜んで行きますみたいな。」

くるみ(数学準備室って、数学の教師の部屋だよね。職員室以外にも先生たちには各教科の部屋がある。そこで同じ教科の担当同士で、今後の授業方針とかを打ち合わせたりするらしい。)


○学校・数学準備室(放課後)

数学準備室のドアをノックして、引き戸をゆっくりと開けるくるみ。

くるみ「2年2組の橘です。」

九条「どうぞ。」

6つのデスクが、横3列、縦2列で向かい合わせで並べられた部屋。机の奥にはソファーと小型の冷蔵庫が見える。九条以外に部屋には誰もいない。

くるみ(この部屋に入るのって初めて。てか、基本、生徒が先生に呼び出されるのは職員室だし。)

九条「座って。」

自分の座るデスクの隣のデスクの椅子を引く九条。くるみは幾分、緊張した面持ちでそこに座る。

九条「これ、なに?」

くるみの前に差し出された名前以外は白紙のテスト。

くるみ「テストです、私の。」

九条「そんなの分かってるに決まってるだろ!なんで白紙なんだよ!?昨日、一緒にやっただろ!」

くるみ「だって……」

じっと九条を見るくるみ。

九条「なんだよ。」

くるみ「先生が恋愛相談にのってくれなかったから。」

九条「あぁっ!?そんな理由で腹を立てて白紙で出すとか、小学生かよ!!」

くるみ「大事な理由ですー!」

口を尖らせて抗議するくるみ。

九条「君が白紙で出したせいで、俺は怒られたんだぞ!教頭に!教え方が下手なんじゃないのって。たまたま職員室の俺の席の近くをを通ったときに、このテストが見えて……九条くん、0点じゃないか、どうなってるんだって。」

くるみ「先生が悪いんですよ、生徒の気持ちに寄り添わなかったから。」

九条「まだ言うか……。」

くるみ「先生が恋愛相談にのってくれないかぎり、私、数学のテストはずーっと白紙で出します。」

九条「はぁ!?そんなことしたら留年するぞ!」

くるみ「留年したら、また教頭先生に怒られますね。君のせいで彼女は留年したんだって。」

九条「……このやろう……」

くるみ「先生、どうしますか?」

九条にずいっと顔を寄せるくるみ。諦めたように項垂れる九条。

九条「……分かった、分かったよ。のればいいんだろ、橘の恋愛相談に。」

はあとため息を吐いて、後頭部を掌でかく九条。

九条「そのかわり、恋愛相談にのる日は俺と一緒に数学のお勉強だ。」

くるみ「えーっ!?それは嫌!」

にやっと笑う九条。

九条「じゃあ、恋愛相談はよそをあたってくれ。」

頬を膨らますくるみ。

くるみ「いいよ、いいですよーだ!先生と一緒に勉強します。その代わり約束ですからね。私の相談にのってくれるの。」

くるみが小指を差し出す。

九条「なんの真似?」

くるみ「指切りげんまんです。」

九条「指切りげんまんって、普通、女子高生がするか?」

そう言いながらも、くるみの小指に自分の小指を絡める九条。

くるみ「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本のーますっと。」

九条「しかもそこは普通に針千本なんだ。」

仕方ないやつと言った顔で笑みをこぼしてから、九条はくるみにシャープペンシルを差し出す。

くるみ「うん?」

九条「テスト。さっさとしろ。」

くるみ「えっ!?今、ここでするんですか!?」

九条「当たり前だろ。なんのために、俺が昨日、教えてやったと思ってるんだ。」

くるみ「うっ……」

九条「平均点の53点以下だったらマジで許さん。」

くるみ「先生の鬼!!」