ある夏の日の図書館。
「恋、この資料よりも写真」
図書館の隅のテーブルで、黒い髪を乱暴にかきあげながら、上野宗介が言った。
宗介は、テーブルについて、地域の資料の図表をまとめているところだった。
「探したんだけど中々なくて」
宗介の真向かいで、黄金色のミディアムヘアの新田恋が言った。
恋が、いつでもすぐ子狐の姿に変身できるのはこのお話の秘密である。
「無いわけないだろ。こんだけ本があんだから。お前の探し方が悪いの。」
「うーん…………」
「もう一回探してきな。向こうの棚から。借り出される前に。」
「……面倒くさい」
「面倒くさいじゃない。早く行ってくる。終わらないだろ。」
「新田さん、この資料、テーマからずれてるよ」
宗介の向かい側、恋の隣の席から、人形の様な顔立ちをした樋山䄭風が、顔をあげて言った。
「テーマに沿って持ってきてくれなきゃ、まとめ出来ないよ。」
「樋山は祭りの歴史のまとめ。」
宗介が言った。
「まったくなんで僕達の夏休みの宿題にこいつまで来るんだか。」
「別に良いだろ。僕が居たって。」
「良くない。僕は恋と図書館デートをするつもりだったのに。」
「図書館なんていうおいしいシチェーションで、お前達を二人きりなんかにさせるか。そんなのって許せない。新田さん、資料、もう一冊お願い。」
そう言われて恋は立ち上がった。
3人は夏休みの宿題をしていた。
地域の行事を調べるレポートで、恋達は夏祭りをテーマに選んだ。
図書館の地域のコーナーに祭りの資料は沢山あったが、逆にありすぎて、恋はどれから手を付けていいか分からずにいた。
「どんな資料を選んだらいいか分からないよ」
「また馬鹿言ってる。パラパラめくって、レポートに適当な写真と文章が出てくれば良いんだよ。」
「その適当が分からないんだよ……。」
「新田さん、僕も一緒に選んであげる。」
䄭風が言った。
「どういうのが適当か教えてあげる。上野は邪魔すんなよ。」
「待てよ。」
宗介が言って、䄭風を睨んだ。
「僕も行くから、一段落するまで待ってろよ。ったく恋はどんくさいんだから。」
宗介のまとめが終わって、3人は、もう一度地域の資料のコーナーに行こうと立ち上がった。
と、そこで、事態は急展開する事となる。
テーブルを挟んで立っている3人の周りで、図書館がふいに大きく揺れて、続く爆発音。
白い煙がもうもうと立ち込め、辺りが見えなくなる。
「恋!」
「新田さん!」