「風邪、アンタにうつしたら治るかなって」
「………いいよ」


 そう答えると、彼はマスクを下にずらして強引に私の唇を奪った。


(彼の声が、歌が、ここから生み出されているんだ……)


 その声を、歌を、全部一人占めしてる気分になる。その温もりが離れていったとき、少し寂しいと思った。
 だけど。


「♪~」
「そのメロディ……」


 マスクを元の位置に戻したタスクは、鼻唄を歌いながらスマホを弄る。


[昨日アンタが歌ってたの]
[続き、作った]

 小さな声で鼻唄を歌い続ける彼は、私だけが知っている〝タスク〟の姿。


「♪~」


 一番の本心は隠してしまった。だけど――。


 私は勝手に作った対旋律を彼の歌に乗せて、青空の下、人知れず二人でメロディを奏でた。


〝私は、タスクが、好きだ〟


【終】